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韓国のIT事情に詳しい

原田 道子さん

 浜松市葵西にある税理士事務所、(株)総合ビジネスブレイン・道(原田道子税理士事務所)の代表取締役。韓国のIT事情に詳しく、またベンチャーとの交流も進めている。ご自身も韓国のコンサルタント会社の役員を務める。油絵を描くことが趣味。弟さんは一級建築士の荒川明さん。浜松市小池町にお住まい。税理士、社会保険労務士。
聞き手/ 川井 啓介 川井建設(株)社長・浜松協会
川井 昨年ビジネスプランコンテストで特別賞をもらったと、お聞きしましたが、どんなものですか?
原田 「地域医療、介護コミュニテイネットワーク」という題ですが、IP電話を使って地域医療に貢献しようというものです。開業医と家庭、開業医同士、特別養護老人ホームと家庭とかに使用する新しいコミュニケーションシステムです。それを建設業界でも使えるのでは?と思います。
川井 どういうものですか?
原田 日本ではこれから本格的になりますが、インターネット・プロトコルってありますよね。インターネットを使ってテレビ電話のように、お互いがコミュニケーションしようというシステムです。
川井 ということは、デジカメを使ってですか。
原田 デジカメは静止画ですが、テレビ電話のように動画です。テレビ電話との違いは、1カ月固定の2000円とかのプロバイダー料金さえ払えば1日24時間話しっぱなしでも動画を写しっぱなしでも電話代金はいらないのです。現場と本社と結んでも経費も節約できるし、サービス向上にもなります。例えば、建築現場とお施主さんと結んで、いつでも現場が見られるようにしてあげるとかね。「いま、こういう状況です」「この蛍光灯、これでどうですか」「あすは、こんな工事をやります」とか…。
川井 見せることができる。
原田 そう。材料屋さんとの打ち合わせなんかもできるでしょ。「じゃ、この色にしよう」だとか、その場その場で、ある程度対応できるようになるのですね。
川井 お施主さんが気に入った材料や機器にその場で“変更”することもできるかもしれない。
原田 そう。そういったことにも、IP電話って活用できるかもしれませんよ。工事中には必ず、何か変えたいものが出てきますよね。そのとき、その場で見積書とか大体の金額を取り決めできる建設会社さん、少ないですよね。そのことで最後になってゴタゴタするケースって多いのではないでしょうか。
川井 結局「払ってください」「まけろ」。せっかく建設中は喜んでもらっているのに、建ち終わって、その話になるとお互いにおかしな雰囲気になっちゃう。お客さんと、工事中に本当の意味でのコミュニケーションができていないのかもしれません。
原田 そう。わたしね、建設業界も新しい技術、モノ自体の技術、建てること自体の技術っていうのはすごいと思うの。一生懸命取り組んでいる。でも、サービスへの取り組みはもっともっとあるのではないでしょうか。変更個所を決めたらその場でおおよその金額を提示し、サインをもらうとか、キチッと取り決めることもサービスの一つ。
川井 そのIP電話、建設現場とお施主さんを結んで、毎日のデータとか様子を送ったり、要望を聞いたり、それをコンピューターを使ってということですね。言ってみれば、コンピューター・コミュニケーション。
原田 インターネット・プロトコルですと、動画と文字と音声が同時にやり取りできるのです。アウトプットすれば記録に残り請求できないということもなくなる。そういった新しい技術、建設関係の方にもおもしろいなと思うものもありますね。
川井 確かに、原田さんが言ったように、建設関係も技術、ハードのほうは進んでいますが、サービスのほうの技術、それもパソコンを使って、うまく利用したサービスというのは、まだまだかもしれませんね。ITといえば、お隣の国・韓国はITや関連ビジネスが日本よりも進んでいると聞いています。原田さんはよく韓国に行っているそうですが、そこのところを、きょうはお聞きしたいですね。
原田 まず、韓国のブロードバンド、そのすごさっていうのは、信じられないすごさですよ。世界でトップといわれ、ブロードバンドの人口比率はアメリカの10倍以上です。日本は世界の中で47番目とからしく、超超後進国になっています。
川井 それはどこに原因があるのでしょう。
原田 一番問題なのは、政治とNTTかな(笑)。浜松のテクノポリスにさえ、まだ、光ファイバーが来ていない。
川井 ADSLだって、やっとこのごろ。
原田 アクト(アクト・シティー)でさえまともなOAフロアになっていない。私ね、韓国の仕事をしようってアクトに事務所を借りたのです。コンピューターの回線を引くといって床をめくったら下がコンクリート。「何、これっ」。しょうがないからコンクリートとマットの間にISDNの線をはわせて。床がボコボコしている。
川井 先端技術産業の集積地、浜松でね。言われているほど、わたしたちの周り、まだまだIT化していないのかなー。
原田 サービスだとか先端技術の動きだとかといったことから考えていったら、絶対おかしい。本当にハードだけっていう感覚ね。建設関係の人、ITに対して関心が薄いのですかね、わたし、心配。
川井 そんなことはありませんが。でも、おっしゃるようにITやサービスは確かに遅れていますね。
原田 製造業の成功は日本を経済大国にしましたが、IT分野、ブロードバンド、そういったことのインフラ整備などは世界の中で、ちょっと遅れを取っているのかなって、そんな感じがします。
川井 韓国に行っていて、建設業に何か参考になることありますか?
原田 韓国人は短気で、我慢強くない。日本人は、その点我慢強い。日常生活に不便でも、冬寒くても、夏暑くても我慢してしまう。逆にいえば、そういうところが遅れていくのです。生活に密着した機能性、合理性が整っていない。それは建築分野では多く見られます。韓国の男性が日本に来て一番嫌なのは、マンションに住んで、ゴミ袋をさげて出す。あれは考えられないというし、韓国に住み着いた日本女性は、日本は、住空間が機能的でなく住みにくいといいます。そこに住む人が便利で住みやすいことが第一優先なんですね! モノの分野でもサービス、ソフトが遅れていますね。一般の人たちが、なにを望みなにをほしがっているのか、じっと見極めると足らないもの、不足しているもの、いままでと全然違うものが考えられると思います。
川井 いま「すき間を探せ」ってよく言われますよね。そのすき間を探すコツってあるのでしょうか、それで成功するコツのようなもの。
原田 すき間で言えば、建設業界で誰もやっていない仕事。または競争の少ない分野ってなんでしょうか? これからの生活の中では絶対ほしいものなのに、まだ業者が少なくて品質も悪いし、あまりにも高すぎる。このようなものが、あります。また、建設業のみなさんて、建てることには一生懸命ですよね。でも、建ててから、保守、メンテナンス、維持とかに対しては、あまり考えていないようにみえます。そこからお金を稼ぐこともね。
川井 公共事業をやっていると、リピートの仕事は役所からあるって考えてしまいます。建てた後もいかにお客さんとして仕事にするか、あまり考えないですね。建てたら終わりという発想だと「すき間」は見えてこない。
原田 そうなのです。
川井 建設業界の営業も「新しい仕事を下さい」っていうのが多い。そういったことから発想を変えなければいけない、と思いますね。
原田 いま、いろいろな分野で規制緩和が進んでいますよね。そうするとその中にも、仕事って生まれてきます。いろいろな規制緩和、建設関係で使えそうなものもたくさんあります。もちろん、建てるほうの規制緩和には当然目を向けているでしょう。ただ、IT、情報、ソフトやサービス、一見、建設とは関係ないと思われるようなそういった分野の規制緩和はどうでしょう。疎いというよりもあまり目を向けていないのではないでしょうか。というよりも、利用しようとしていない。いままでと違うところに目を向けると、そこにビジネスチャンスが生まれるのでは……
川井 新しい事業を起こすには視野を広げろ―ですね。そういう意味では、ITなどの発想でいけば、世界というか、もっと広い視野で物事を見るようになるのでしょうね。
原田 韓国では去年の1月から6月の半年間で、新興株式市場(韓国コスダック)に上場したベンチャーが103社あるのです。日本のジャスダックが34社ですから、韓国ってすごいと思いませんか。向こうのベンチャーはすごい。
川井 ヘー、すごい数。全部が全部成功するとは限らないでしょうが、上場するっていうことだけでもすごい。
原田 韓国のベンチャーは事業を考えたときから、もう上場を目指すのです。日本とは、そこらあたりも違います。一人二人で(会社を)興そうと思ったときから、もう上場の話をしています。わたし、そういう人たちと会う機会があるのですが、「ホラ吹き」ってよく言うのですよ(笑)。大学でも経営者になるための実務的な科目が多いですし、国の政策としても、上場できるようにインフラも整備されているのです。
川井 上場するために情熱と責任感を持って仕事に取り組んでするのですね。
原田 韓国では、「わたしは経営者です」って言う人が多いのです。では、経営者が自分のやろうとしていることの技術を持っているかというと、そんなことはない。日本だったら、建設の技術を持っているから建設業をやろうっていうのが普通ですよね。でも韓国は、経営者は「経営する人」なんです。だから、経営者のやる仕事は、人を雇うこと、人を管理すること、仕事を取ってくること、日本の感覚とちょっと違いますね。
川井 そういうことを、大学でも学ぶのですね。
原田 そうですね。経営者は自分が技術を持っていなくても、優秀な技術者や優秀な経理担当者、優秀なデザイナーを探してくればいい。経営者はそういう優秀な人を探す能力を持っていればいい、そんな経営者が結構多いのです。
川井 日本はどちらかというと、自分の持っている技術で会社を興そうとする。
原田 韓国はちょっと違う。本当の経営学を学んだ人が多いですね。それから、証券会社で株取引の技術を学んでから経営者になる人も多い。証券会社にいると「世界が見える」と言うのです。
川井 いまの株式市場はグローバルですからね。
原田 で、その人たちは、「いま、世界の中で」って言うのですよ。「韓国の中で」とはあまり言わない。「いま、世界で一番必要とされているもの」「いま、世界で一番請われているもの」、それがなにかを探して、見極めようとしています。それで、いま、世界で一番必要とされているものは、IT技術とWebデザインであるとほとんどの人が考えています。だから、いま、世界で勝つためには、優秀なIT技術者とITデザイナーを雇うのが経営者の一番の仕事だと、はっきり言います。国力を高めるのも経済大国になるのもそれが大きなウエイトを占めるだろうから、IT技術者とITデザイナーをキチッと教育している国が世界を支配していくのではないかって。韓国は、この方面にものすごく力を入れています。
川井 建設業界では、CALS/ECが話題になっていますが、韓国のIT関係者はなんと言うのでしょうね。私達も、韓国に負けないように、もっともっとITに取り組まなければならないと、つくづく感じました。ありがとうございました。
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