白輪園長

 富士山の噴火が周辺地域に与える影響について、具体的にどのような懸念がありますか?
 「噴火前」と「噴火後」両方について懸念があります。噴火前では、裾野市は十里木別荘を含む須山地区を噴火前避難地域に指定していますので、富士山の火山活動が始まり、噴火警戒レベルが引き上げられれば、須山地区約2,300人の住民は市南東地域の溶岩流が流れない地域へ避難しなければならず、日常の生活に影響が出ると思います。また、噴火後では、溶岩流が市街地へ流下してきた場合、流れ込んだ溶岩の温度は1年経っても100℃以上の場合があるらしく、過去の状況からその地域は約30年間にわたって不毛の土地になる場合があるといわれていますので、市民生活や経済活動に多大な影響があるものと考えます。ちなみに噴火後に溶岩流が流下してくる確率は、裾野市で約1/8(富士山全体の想定火口位置が252か所で、裾野市の影響ある想定火口位置が31か所なので)ですから、噴火したら必ず溶岩が流れてくるわけではありません。
 また、火山灰(降灰)の影響は、1707年の宝永噴火では、裾野市が約2cm~16cm(北側程多い。)であり、車両運行で少量でもスリップを起こし、10cm以上になると4WDでも走行に大きな影響がでるといわれていますので、溶岩が流れてこなくても様々な影響があると考えます。

 ハザードマップの改訂のポイントはどのようなものですか?
 ハザードマップ改定のポイントは大きく3つあり、一つ目は対象となる噴火年代が3,200年前から5,600年前と2,400年遡ったことであり、これにより最新の調査結果で想定火口範囲が拡大したことです。二つ目は溶岩噴出量、特に大規模噴火の噴出量が7億m3から13億m3と約2倍に、火砕流の噴出量が240万m3から1,000万m3と約4倍に見直しされました。三つ目は分析技術の向上、具体的には使用する地図の地形メッシュサイズが、溶岩流(200m)、火砕流等(50m) だったものが、20mのメッシュサイズとなり、より精緻な分析ができるようになったことです。いずれにしても、総じて「溶岩流の流下」が速く・広くなりました。また、悪くなったことばかりでなく、裾野市としては、精緻な分析ができることにより明らかになった富士山の尾根地形の影響により、火砕流・火災サージや融雪型火山泥流の到達可能性範囲が縮小になりました。
 裾野市富士山火山対応資料(裾野市提供)

 噴火発生時に住民に避難情報を伝達する手段やプロセスについて教えてください。
 現状においてはマスメディアの対応も早く、国・県から緊急速報メールやLアラート(テレビデータ放送)による発信がありますが、市(行政)としても、防災行政(同報)無線、マモメールや市公式ウエブサイト・ラインアカウント等SNSを活用し市民への素早い伝達が可能です。また、避難情報等の発令については、避難行動に時間を要する要支援者に対し努めて早く避難情報を伝達するとともに、「不確実性」が特性とされる火山災害においては、噴火現象の状況に応じた適時適切かつ融通性をもった避難情報の発令が必要となります。

 地域住民に対して噴火のリスクや対策についてどのような啓発活動を行っていますか?
 富士山の火山活動が始まり噴火警戒レベルの引き上げにより必ず行動しなければならない富士山山体に近い須山地区住民の皆さんに対しては、ハザードマップ改定の年から3カ年にわたり継続的かつ段階的に避難訓練を行い、避難の必要性や避難要領について周知・啓発を図りました。また、我々市職員や関係防災機関等で構成する災害対策本部についても、避難支援の体制や要領について検証・検討し、ほぼ確立することができたものと考えています。

 富士山噴火の災害対応体制について、どのような点が重要だと考えますか?
 市民が安心して整斉円滑に行動できるために必要な迅速・正確な情報収集及び適時適切(的確)な情報伝達の体制整備だと思います。具体的には、噴火前避難であれば噴火警戒レベル4発表に伴い、須山地区に対し速やかに避難指示を発令し、約2,300人の住民を約2時間で避難させるために必要な情報収集と伝達要領を確立すること。また、噴火後においては、噴火後火口位置がどこでどの方向に溶岩流が流下するかの情報を速やかに収集し、それに応じた避難要領を対象となる地域の住民に正確に伝達することが必要です。このため、静岡地方気象台や県危機管理部(情報課)、隣接市町等との連携を平時から整えるとともに、避難要領(計画)についても住民等に対し周知啓発することが必要となります。今後、市独自で噴火後の火口位置や溶岩流の流下方向を把握するためドローンやカメラ等情報収集資機材の導入等を検討したいと考えています。

 避難所の設置や運営について、裾野市はどのような準備をしていますか?
 大規模震災時の対応基準ですが、市内に1番最初に開設する11か所、最大27か所の一般避難所を、また、12か所の福祉避難所を指定しています。毎年9月の総合防災訓練では、モデル地区住民等による避難所の開設・運営に関する訓練を行っており、食料・水等の備蓄も含め避難所資器材等を整備しています。富士山噴火災害においては、噴火前避難の須山地区は、その中の溶岩流が未流下の2つの避難所を開設予定であり、今年度の昨年12/3に行った避難訓練では深良中学校と東中学校に避難所を開設し、須山区民の一部ですが実際に自家用車や市が準備した避難バスにより避難をしました。噴火後避難については、溶岩流の流下ラインにより4つのパターンに区分しており、特に、御殿場方向からの大規模な溶岩流の流下時には、市外(広域)避難せざるを得ない状況となりますが、市外(広域)避難に関しては、県主導で未だ調整段階のため、細部具体化は今後の課題となります。

 富士山の噴火リスクに関する情報収集やモニタリングは、裾野市はどのように行っていますか?
 市として特段に噴火に関するモニタリング等は行っていませんが、毎月発表(送付)される「富士山の火山に関する活動資料」を確認するとともに、機会を捉えて静岡地方気象台(火山防災官)への連絡確認を行っています。また、民間企業との連携により火山災害に関する各種シンポジウムやフォーラム等の場に参加しています。

 私たち、一般の住民が心がけることは何ですか?
 住民自身(各人及び家族等世帯毎)が防災意識を持つことは非常に重要です。まず、自分自身が居住する地域のハザードマップ(裾野市は、富士山火山防災マップ)を確認し、地域の防災上の特性、特に、リスクを把握することから始まります。富士山火山避難に関しては、溶岩流の流下状況(ライン区分)を理解し、自分自身が居住する地域への溶岩流の流下の有無や流下到達時間、そして、流下に応じた避難要領等を把握するとともに、ご家族がおられる方については、平時からの家族間での話し合いが必要となります。そして、話し合いを通じて、非常時の連絡手段や避難手段、避難経路、避難場所(県内等で火山災害対象エリア外市町の親戚宅がある場合等)、非常用持ち出し品等の災害時の対応について認識を共有し計画準備しておくことが大切です。中でも、移動手段や持ち出し品の準備は重要であり、特に、火山災害においては防塵マスクの準備は有効と考えます。

裾野市公式ウェブサイト https://www.city.susono.shizuoka.jp/index.html

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