「宇宙エレベーター」って知ってますか?part2
宇宙エレベーター クライマー・ロボティックス競技会2019
(SPEC x ROC)レポート

株式会社 三与建設
代表取締役 三尾祐一

7年前の249号でpart1を紹介しています。

ロケットを使わずに地上と宇宙を往復する新しい輸送機関「宇宙エレベーター」の基礎技術研究を兼ねた競技会「宇宙エレベーター・クライマー・ロボティックス競技会2019」(SPEC x ROC)が、2019年9月14~15日、福島県南相馬市の「福島ロボットテストフィールド」で開催されました。
大会運営のお手伝いをしてきましたので、様子をレポートします。

1. 宇宙エレベーターとは?

概念図

「宇宙エレベーター」をご存じでしょうか? 
日本では「軌道エレベーター」と呼ばれることも。

それは地上と宇宙をエレベーターでつなぐ、これまでにない輸送機関です。地上から天へと伸びる塔のようなものを想像してください。

かつては突飛な夢物語として受け止められていましたが、理論的には十分実現可能なものであり、近年の技術発展によって、手の届く域に到達しつつあるのです。


概念図

現在の宇宙開発の主役であるロケットには墜落や爆発の危険が伴いますが、宇宙エレベーターにはその危険はなく、大気汚染の心配もありません。実現すれば、ロケットに依存していた宇宙開発は大きく飛躍します。訓練を受けた宇宙飛行士でない私たちでも、おそらくは高齢者や体が不自由な人も、宇宙を訪れる機会が得られるかも知れません。

2.宇宙エレベーターの仕組み

概念図

地球を周る人工衛星は、地球の重力で下(内側)へ引っ張られている力と、遠心力で上(外側)に飛び出そうとする力が一致して釣り合っているため、高度を維持して周回し続けています。このうち赤道上の高度約3万6000㎞を周る人工衛星は、周期が地球の自転と同じで、地上に対して天の一点に静止しているように位置するため、「静止衛星」などと呼ばれます。

この静止衛星から、地上へ向けてケーブルを垂らしたとしましょう。ケーブルを吊り下げた分、衛星の地球に向いている側、つまり下の方がやや重くなり、このままでは徐々に地球の重力に引かれて落下してしまいます。そこで、反対側にもケーブルを伸ばしてバランスをとれば、衛星は静止軌道の高度を維持して回り続けられますね。

次に、下向きのケーブルをさらに伸ばす。また重さが偏るので再び反対側も伸ばす。これを繰り返していくと、下へ伸ばしたケーブルはやがて地上に到達し、地上と宇宙を結ぶ長大な1本の紐になります。このケーブルに昇降機を取り付け、人や物資を輸送できるようにしたものが宇宙エレベーターであり、原理はとてもシンプルなのです。

3.宇宙エレベーター協会

宇宙エレベーター協会

一般社団法人宇宙エレベーター協会(JSEA)(大野修一会長)は2008年、この宇宙エレベーターに関心を持つ有志が集まり、任意団体として発足。翌年一般社団法人化し、現在会員は150名超を数えます。研究発表や活動報告を行う「宇宙エレベーター学会」を毎年開催しており、これに並行して、2009年から「宇宙エレベーター技術競技会(SPEC)」を実施してきました。

元々は、米Spaceward財団が実施していた大会を、JSEAの誕生を機に日本でも実施しようと始まったものです。 SPECでは、ヘリウムガスを充填したバルーンから吊り下げた紐(テザー)を宇宙へ届くエレベーターの支柱に見立て、参加者は自作の昇降機械(クライマー)を取り付けて、テザーを昇降させて速さや安定性などを競います。

開催初年の150mから始まった大会は年々高度を上げ、2013年には高度1200mに到達。クライマーも時速100kmを超える機体も既に開発されています。航空法の関係から国内ではこれ以上の高度を上げる事が困難になったことから、2019年にクライマーに高機動ロボットを貨物として積載し、指定高度まで昇降させる競技会を企画しました。

4.宇宙エレベータークライマー・ロボティックス競技会2019(SPEC x ROC)

宇宙エレベーター協会

クライマーで指定高度までロボットを揚重し、その高度からロボットを分離降下。地上に軟着陸させた後に、ロボットに指定作業をさせるという競技です。今回ロボットを採用した理由はいくつかあります。

(1)宇宙エレベーターのステーション高度で宇宙太陽光発電設備などの組み立て作業では宇宙線被曝のリスクが高いことからロボットによる作業が多くなることが考えられます。競技会に組み込むことにより宇宙用の高機動ロボット開発を促すことができることを期待しています。

(2)火星などの地球外天体での宇宙エレベーター建設時には、地上施設建設のために資材の輸送に先立ち、建設用ロボットをケーブル途中から降下させることが考えられます。

(3)クライマーの積載装置の遠隔操作技術の開発にあたり、貨物側の装置と連携する必要性が考えられ、貨物側の装置としてロボットを使うことができると考えられます。

(4)ロボット技術開発の新たな挑戦目標を提供することができると考えています。

ただし、競技の内容から、上空200m程度までヘリウムを充填したバルーンを掲揚することが出来る場所で、なおかつ上空から重量物を落下させる事が出来る場所となると、広大な敷地が必要なことはもちろん、周辺地域や、関係機関との許可調整が必要と成り、なかなか開催適地が見つかりませんでした。



※画像及びテキストの引用出展元 一般社団法人 宇宙エレベーター協会



5.福島ロボットテストフィールド

福島ロボットテストフィールド

「福島ロボットテストフィールド」は、物流、インフラ点検、大規模災害などに活用が期待される無人航空機、災害対応ロボット、自動運転ロボット、水中探査ロボットといった陸・海・空のフィールドロボットを主対象に、実際の使用環境を拠点内で再現しながら研究開発、実証試験、性能評価、操縦訓練を行うことができる、世界に類を見ない一大研究開発拠点です。

本拠点は、南相馬市・復興工業団地内の東西約1,000m、南北約500mの広大な敷地内に「無人航空機エリア」、「インフラ点検・災害対応エリア」、「水中・水上ロボットエリア」、「開発基盤エリア」を設けるとともに、浪江町・棚塩産業団地内に長距離飛行試験のための滑走路を整備。2019年度末全面開所を予定しており、通常では実現不可能な各種実験が実施可能です。

福島県の誘致応援も有り、宇宙エレベータークライマー・ロボティックス競技会の開催地となりました。



※画像及びテキストの引用出展元 福島ロボットテストフィールド



6.現地レポート

福島ロボットテストフィールド

福島ロボットテストフィールド全景。写真に収まりきれない。


ヘリウムボンベを所定の位置に配置し準備開始

福島ロボットテストフィールド


飛行船型バルーンにヘリウムガスの注入完了

福島ロボットテストフィールド


同時作業で地上競技フィールドの作製

福島ロボットテストフィールド


準備が整い、競技開始に向けて安全ミーティング

福島ロボットテストフィールド


福島ロボットテストフィールドには各種実験や、点検トレーニングをする為の設備が整っている。

●試験用プラント(写真左側)
平時・災害時のプラントを再現し、点検、情報収集、機器操作に関する試験や操縦訓練を行う施設です。様々な形状の配管、バルブ、ダクト、階段、螺旋階段、キャットウォーク、垂直梯子、タンク、煙突などを設置しています。計器・指示器の変動、煙・気体の充満、熱源や瓦礫の配置などにより異常環境を再現することができます。

福島ロボットテストフィールド

●試験用橋梁
鋼・コンクリート製の4種類の形状の橋梁で、老朽化や障害物を再現し、状況確認や点検に関する試験や操縦訓練を行う施設です。点検対象となるコンクリートのひび割れ・剥離・うき、鋼材のボルト緩み・亀裂、支承部の機能障害などを再現しており、一部の変状は、テストピースとして入れ替えが可能です。点検時に障害となる照明柱や防護柵、トラス、ケーブル管等も設置できます。

●試験用トンネル
トンネル中での交通事故、崩落、老朽化を再現し、状況確認、捜索、瓦礫除去、老朽化点検に関する試験や操縦訓練を行う施設です。高速道路や一般道の照明(LED灯、ナトリウム灯)、ジェットファンなどを設置し、壁面には点検対象となるひび割れやうきを再現しています。一部の変状はテストピースとして入れ替えが可能です。内部に車両、瓦礫、岩石、土砂など障害物を自由に配置・固定できるほか、両側シャッターを閉鎖して長大トンネル中央部を再現できます。

福島ロボットテストフィールド

●市街地フィールド
住宅、ビル、信号・標識付の交差点を配置して市街地を再現しています。建物の内外に車両や瓦礫、点検対象物など設置し、情報収集・調査、障害物除去、人員の捜索・救助、点検に関する試験や操縦訓練ができます。コンクリートや木材の瓦礫を使った走行試験、建物の壁・床のブリーチング訓練、道路部分を使った自動走行の試験にも活用可能です。

福島ロボットテストフィールド 福島ロボットテストフィールド

●無人航空機エリア
無人航空機向けとしては国内最大となる飛行空域、滑走路、緩衝ネット付飛行場において、基本的な飛行から衝突回避、不時着、落下、長距離飛行など多様な試験ができる環境を提供し、無人航空機の実用化を推進します。

福島ロボットテストフィールド


飛行船型バルーンだけでは浮力が足りず、急遽追加浮力を得る為の小さな補助用バルーンを3個追加

福島ロボットテストフィールド





高さ30mの試験プラントからもテザーを2本下ろし、本番に向けて試走及び、運用の練習中

福島ロボットテストフィールド



















上空100mにバルーンを掲揚し、クライマーの走路を確保。写真左側がベルトテザー、右側は6mmダイニーマの補助ロープ

福島ロボットテストフィールド

試験プラントに設置された、試走用のベルトテザーにクライマーをインストールし、セッティング及び確認作業。この試走コースを問題無く昇降できたチームから、バルーンから釣り下げた本コースへ進むことが出来る

福島ロボットテストフィールド

中野製作所のクライマー
地元福島の企業チーム。難切削材・非鉄金属の高精度切削加工を得意としている会社なので、非常に凝った精巧な造り。

福島ロボットテストフィールド

神奈川大学工学部宇宙エレベータープロジェクト・チームKUのクライマーに積載する高機動ロボットと、射出装置。
クライマーから分離された高機動ロボットは、パラシュートで降下スピードを減速しつつ、着地直前に高圧ボンベに充填された炭酸ガスをタイヤチューブに噴射してゴム製のチューブを膨張させ、着地の衝撃から高機動ロボットを守るシステムを搭載している。

神奈川大学工学部宇宙エレベータープロジェクト

福島ロボットテストフィールド

神奈川大学 工学部 江上研究室の報告ページ
神奈川大学工学部江上研究室






高機動ロボットが、本番競技の分離降下後の着陸時に破損してしまっては性能評価が出来なくなるので、本戦前の予選として、事前にロボット単独で地上タスクの評価をしました。
指定場所からスタート。指定された貨物を独自機構で拾い上げる。途中の障害物を避けたり乗り越える。ゴールまで運ぶ。
作業の正確性や、ゴールまでの所要時間、コース内でのペナルティーなどを総合的に判断し、評価していきます。



エキシビジョン参加の日本大学チームのクライマー。走路が100mでは本来の性能の全ては発揮できないが、最高速度は時速100kmを超える。
2018年08月26日 プレ大会での様子

日本大学理工学部
精密機械工学科 青木研究室



チーム・The 4th Laboratory
社会人チームのクライマー。
このビデオを見て貰えれば、この競技の一連の流れが理解できるはず。
全参加者の中で唯一、クライマー昇降、ロボット分離降下、ロボット着陸、ロボットによる地上競技エリアのゴール到達。
全てのタスクを制限時間内に達成出来た唯一のチームとなった。



地上着地時に高機動ロボットが破損してしまったが、制限時間内にその場で修理し、走行機構部分だけには成ってしまったが、無事ゴール。

7.競技結果

競技結果は以下のページに掲載されています。
一般社団法人 宇宙エレベーター協会