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外岡達朗所長

外岡達朗所長

静岡県地震防災センターでは現在、令和2年3月のオープンを目指して全面リニューアルが進められている。リニューアルの主目的は、築後約30年を経過したセンター施設の老朽化対策だが、目的はそれだけではなさそうだ。思えば、この30年間に阪神・淡路大震災や東日本大震災など巨大地震が発生し、気象条件の変化に伴って災害の種類や規模も変化している。施設のリニューアルと共に、新たな時代ニーズに対応した展示や情報発信が求められている。防災先進県と言われる静岡県にあって、その中枢に位置づけられる防災の拠点である同センターは、どのように生まれ変わろうとしているのか?そして、何を目指すのか?外岡達朗所長を訪ねた。

■30年間の来館者数は延べ130万人

委員 これまでのセンターの歴史とあゆみを教えて下さい。

外岡 静岡県はご存じの通り、東海地震がいつやってきてもおかしくないと言われてきました。そうした中で、当センターは平成元年4月に開館しました。大規模地震や津波が予想される中、さまざまな形で、防災に関する啓発や災害想定の普及などの情報発信に努めて参りました。また、自主防災組織など、防災に関わる人材の育成や、大学や研究機関、報道の方々など、防災関係者の交流拠点として存在してきました。
 開館当初は、5万人を超える年間利用者がありましたが、その後は落ち着き、阪神淡路や東日本大震災など大きな災害が発生すると来館者が増えるといった傾向があります。平成23年のピーク時には8万人近くの来館を記録しました。平均すると年間4万5千人で、1日150人が利用している計算です。30年間での利用者は、延べ約130万人です。
 9割は県内の利用者が占めますが、4.5パーセントは海外からの来訪があります。開館当時は個人の来館者も多かったですが、8割は学校や自治会、事業所の方々など団体の方が多いですね。一昨年には上皇上皇后両陛下がスペイン国王と一緒にお見えになられました。上皇陛下は、平成6年にもいらっしゃっていただきました。
 当センターは、単なる展示だけではなく、インストラクターが解説しながら展示を見て回り、より防災への関心を高めていただけるようにしています。知っていただくだけでなく、行動していただくことを目指しており、家の耐震化や家具の固定を図っていただく、食料等の備蓄をしていただく、被災時の正しい行動を学んでいただくなどの啓発に努めてきました。
 団体の方が来られる場合は、気象庁OBなどの防災アドバイザーがその地域ごとの特有の危険性や防災対応などを事前に調べて、説明をさせていただきます。そこから発展して、求められれば、地域へ出向いて出前講座なども行っています。

■「命をつなぐ」という防災の新たな視点

委員 リニューアルは、施設の老朽化対策はもちろんですが、展示施設も大幅に入れ替えられますね。昨今、災害が多様化していることも踏まえたリニューアルということですか。

外岡 その通りです。地震、津波だけでなく、気候変動により風水害、土砂災害が激甚化し、火山噴火も起きています。さまざまな災害経験を教訓として防災の考え方もより進化してきています。
 住んでいる地域、場所によって災害リスクは異なります。地域ごとの特性に合わせた避難、備えが大切になり、これを地域で共有していただくことが必要になります。家族によっても違いますね。親の助けが必要な小さな子供がいる、高齢者や要介護者がいるといったように家庭によって事情が異なりますから、他と同じようなタイミングで避難していては間に合わない場合も出てきます。そこが大変難しいのです。
 これからは少子高齢化が進み、高齢者が増えていきます。すなわち災害弱者、災害時に支援を要する人たちが増えてくるわけです。一方で地域の担い手である、警察、消防、自衛隊、あるいは消防団などでは、若い人が減っていくわけで、災害に対する脆弱性が高まってくことになります。ですから、個々人、家族という単位だけでなく、地域で、社会全体で、備えていかねばならない重要性が増していると言えます。
 また、これまでの防災は発災時に「命を守る」ということに主眼が置かれてきましたが、発災後、「命をつなぐ」ということの大切さも着眼されるようになってきました。避難所における衛生の問題、プライバシーの問題、高齢者や女性に対する配慮、車中泊の時の注意など、過去の災害の教訓を生かしたテーマについても考えていただけるようにしたいと思います。

インタビュー風景

■主体性と地域とのつながりが大切

委員 私たちが「防災」に対して日頃から考えておくべきことは何でしょう?

外岡 南海トラフ地震のような超広域災害が発生すれば、道路も被災していますから、応援部隊もすぐには現地に入って来られません。物資もしばらく来ないし、ライフラインも被災しているとなれば、7日分くらいの食料や水の備蓄が必要になります。今は地域ごとに細かく被災予測をして、情報提供できる体制になっています。
 一斉に避難に動けばパニックを起こしてしまいますから、自宅で凌げる方は自宅で生活していただいた方がよいわけで、日頃からそのための備えをお願いしたいです。医療体制も不足しますので、一人一人がケガのないように努力することも大切です。自宅の耐震化や家具の固定など、できることはしっかりやっておかねばなりません。
 そして、避難所に行ったら、お客になってもらっては困ります。自治体の職員もその家族も被災している中で、地域の被災状況の把握と対応など業務は増大しますから、避難所まではなかなか手が届きません。被災者で役割分担して自主的に避難所運営に当たっていただかなければなりません。
 自分の家を復旧することも大切ですが、職場も被災しますので、命があっても職を失うことになりかねません。ですから、職場でも平素から対策を講じ、被災後も自分たちでしっかり立て直して行かねばなりません。
 したがって、個々人はもちろん、企業も地域とのお付き合いをしっかりとしておいていただきたいと思います。この地域には、病院がある、介護施設があるなど、自分の地域の持っている災害に対しての強み、弱みを把握しておいて、学校や企業も一体となった地域防災体制を確立していくことが大切になります。
 阪神淡路大震災の時に建物の倒壊で多くの方が命を落としました。助けられた方の多くは、応援部隊によってではなく、隣近所の人々、地域の自主防災組織によって救助されているのです。結局、隣近所の付き合いがいかに大切かという一つの教訓であると思います。

■体験型施設の充実図る

委員 生まれ変わる防災センターの特徴を教えて下さい。

外岡 風水害や土砂災害などあらゆる災害に対して対応できる施設にしていく必要があるため、展示面積はこれまでの1.5倍ほどになります。

 1階フロアは、まずエントランスで、静岡県の成り立ちや地域特性をご理解いただけるようになっています。60席を備えるメインシアターでは、自然の恵みと脅威を伝えたいと思っています。5.1チャンネルサラウンドシステムで、床振動もあり、リアル感のある体験型シアターとなっています。

 被害想定や地震体験、地震のメカニズム、耐震化や家具の固定、物資の備蓄や発災時の行動、避難所での生活を紹介しているコーナーもあります。
 2階フロアの風水害のコーナーでは、川ができ、浸食して土砂を運搬し、堆積していくといった様子を体験いただけます。風水害のメカニズムや過去事例を知っていただき、どこが危険なのかハザードマップで確認いただけますし、取るべき行動をタイムラインで示しています。

 地域や各家庭でのタイムラインの作り方も紹介しています。
 火山災害のコーナーでは、プロジェクションマッピングで、溶岩流の発生など富士山が噴火した場合の様子を体感していただきます。さらに、その時々の企画に対応できる企画展示スペースがあります。

 3階フロアは、防災関連の図書室や研修室、学習コーナーなどがあり、アドバイザーからいろんな話を聞いて学んでいただけるようになっています。エントランスや図書室、研修室には、木の温もりを感じてもらえるよう、県産材を用いています。外構部も、敷地内に緑を多く配置していますし、インターロッキング舗装を用いて景観に配慮した駐車場を確保しています。

シアター
シアター
避難所体験コーナー
避難所体験コーナー
富士山プロジェクトマッピング
富士山プロジェクションマッピング
フロアイメージ
フロアーイメージ図

■自然の恵みと脅威は表裏一体

委員 緑や県産材など、施設づくりにおいて、自然への愛着が感じられます。

外岡 私たちの主要なテーマになっています。まずは、自然の恵みに気付いていただきたいということです。静岡県には、世界文化遺産富士山があり、3000㍍級の山々が連なる南アルプスがあり、世界ジオパークに認定されている伊豆半島があり、「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟している駿河湾があり、数々の河川や浜名湖など、本当に自然に恵まれたところに住んでいるのです。この地に住まっているとなかなか気付かないのですが、海の幸、山の幸に満ち溢れ、数多くの温泉もあり、本当に魅力的な、自然の恵みの中で生きているわけです。自然に感謝すると共に、自然を守り、それを後世に引き継いでいかねばなりません。
 一方で、自然というのは時として脅威となってわれわれを襲うこともあります。自然の恵みと脅威は表裏一体のものであることをしっかりと感じていただき、だからこそ脅威に対してはしっかりと備えていかなければならないのだということを理解していただければと思います。
 国は、「強くてしなやかな国づくり」を目指し、地域づくりと防災・減災の両立を掲げていますが、静岡県ではキーワードを一つ加えて「美しく強くしなやかなふじのくにづくり」を目指しています。長期的視点に立ち、自然との共生、環境との調和、景観の保全なども含めた災害に強い街づくり、県土づくりを進めています。そういう意味で、「土木」の果たすべき役割はとても重要です。

■個人の集客と拠点性生かした活動目指す

委員 3月のリニューアルオープンが大変楽しみです。

外岡 静岡大学、静岡県立大学、常葉大学、東海大学、浜松医科大学、静岡文芸大学や県、気象台、報道機関らで防災コンソーシアムを作っています。センター内のホールでは、互いの調査、研究成果を発表し合ったり、情報交換を行ったりしています。センターは、施設のみならず、役割にもおいても「防災先進県静岡」の防災の拠点ですから、施設のリニューアルオープンと共に、情報発信と普及・啓発、人材育成に一層注力していきたいと思っています。拠点性をますます発揮して、出前講座、出張展示なども、これまで以上に活発にやっていく方向です。
 防災に関心を持って多くの団体の皆さんに訪問していただけることはもちろんありがたいことで今後も重要ですが、リニューアルを機に、今まで防災にあまり関心のなかった方々にもぜひご来館いただきたいと考えております。子供たちやお子さんを伴った家族連れなど、個人の来館者を増やすことが大切だと思います。センターが新しくなったので出かけてみようか、地震体験をしてみようか、新しいシアターを見に行こうかといった具合に気軽にお出かけいただき、評判が口づてに広がっていくといいですね。大勢の方に開かれた防災センターでありたいと思っていますので、3月にリニューアルオープンしましたら、ぜひお出かけ下さい。

地震防災センター

※地震防災センターのHPはこちらへ
 https://www.pref.shizuoka.jp/bousai/e-quakes/index.html

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