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 2017年8月に沼津市西野の旧東海大学沼津校舎の4号館をリノベーションし、AOI-PARC(アオイ・パーク)がオープンしました。静岡県が進めるAOIプロジェクトの中核となるこの施設では、大学、研究機関をはじめ、一般の企業も入居して農業の研究・開発を行っています。県の外郭団体の一般財団法人アグリオープンイノベーション機構(AOI機構)も入居して、オープンイノベーションの場となるAOIフォーラムを運営しています。AOI-PARCの概要や、AOIフォーラムを立ち上げた経緯や活動内容、今後の見通しなどを聞きました。
(聞き手:静岡県建設業協会総務・広報委員会委員長 佐野茂樹氏、同副委員長 三尾祐一氏、同委員 勝又惠一郎氏、沼津建設業協会事務局長 木塚直人氏)

委員 AOIプロジェクトとはどのようなものですか。

岩城氏 農業に最先端の技術を取り入れることで生産性を高めるとともに、農業と関連産業で研究成果のビジネス展開を図り、人々の健康寿命を延ばすことを目指すプロジェクトです。アグリ(A)オープン(O)イノベーション(I)の頭文字をとってAOI(アオイ)プロジェクトと呼んでいます。農業の研究開発によって生産性を高めた結果、おいしいものや身体にいいものができれば、商品化、ビジネス化して健康で豊かな社会をつくっていくことができる。それがAOIプロジェクトの目指すところです。
 今、他の業種から農業に参入する企業が増えてきています。東部地区では加藤工務店、土屋建設といった建設業、全国的にはIT企業や製造業なども農業をやり始めています。いろいろな分野から参加する皆さんの知恵やアイデア、技術などを出し合って進める、いわゆるオープンイノベーションで展開していきます。このプロジェクトには国の地方創生交付金も充てられており、単なる農業振興施策でなく、大きな意味での産業施策と地方創生の施策です。

委員 そのプロジェクトの中核になるのがAOI-PARC(アグリオープンイノベーションプラクティカルアンドアプライドリサーチセンター)ですね。では、その役目と概要を教えてください。

岩城氏 AOI-PARCは研究開発とビジネス支援の2つの機能をもった中核施設です。AOI-PARCには、静岡県農林技術研究所次世代栽培システム科、慶應義塾大学SFC研究所AOI・ラボ、理化学研究所といったコアとなる研究機関が入っており、品種開発効率化技術の開発をはじめ、食と健康の関係解明に関するビックデータ解析、光技術を活用した作物状態の精密計測技術の開発などを進めています。施設の特徴として、貸し実験室に民間企業も入居しています。この企業はそれぞれ独自のテーマに沿ってコアの研究機関と共同研究したり、研究委託することで、新しい品種を作ったり、農業の生産性を高める開発をしています。

中央:佐野委員長、左:三尾副委員長、右:勝又委員
中央:佐野委員長、左:三尾副委員長、右:勝又委員

委員 施設内で特徴的な設備は何ですか。

岩城氏 研究を支える中核的実験装置として、光、温度、湿度、CO2濃度、風の環境要因を制御し、さまざまな環境を再現できる次世代栽培実験装置があります。これで、身体に良い機能性成分をたくさん含む品種の育て方見つける研究などが進んでいます。その他、植物・環境計測機器、機能性成分分析装置、遺伝子解析装置があります。

委員 具体的な研究例を教えてください。

岩城氏 理化学研究所の光量子制御技術開発チームは、イチゴ炭疽(たんそ)病ガス検知システムの開発を行っています。ハウス内のイチゴがこの病気に罹ると収穫できなくなります。病気に罹った苗が出す微量なガスをレーザー光で分析して、葉に病斑が出る前に感染した苗を見つけようとするものです。昨年から、伊豆の国市で実証実験が始まっています。
 慶應義塾大学SFC研究所では、農家の知識と経験に基づいた匠の技をどうやったら経験の浅い農家などに伝授できるか、三ヶ日のみかん農家、伊豆の国市のイチゴ農家と共同研究しました。アイカメラを使って、匠の農家がどこを見ているか、またヒアリングによっていつ、どんな判断をしているかなどのデータを収集し、そのデータを活用して、経験の浅い農家などにタブレットなどで、例えばどの実を摘んだらいいかなどの問題を出して、解答してもらいます。繰り返し何度も、また農閑期でも勉強でき、技術を学ぶ時間を短くできるので、その分自分で新しいことができるようになります。慶應義塾大学と静岡県ではこの技術を他の産地にも広げる取り組みを進めています。
 AOIプロジェクトはAOI-PARCが拠点になっていますが、生産現場でもこのような研究開発により、農業に新しい技術を入れて生産性を高めようとしています。

委員 施設内でビジネス支援も行うのですか。

岩城氏 このAOI-PARCで生み出された研究成果から、生産者へ新品種を提供したり、加工食品を開発したり、新品種のレシピを提供したりして、アグリ・フードビジネス、ヘルスケアビジネス、生薬開発、装置・システム開発などにつなげていくのが展開のイメージです。AOI機構が運営するAOIフォーラムという会員制組織が、研究成果をビジネス化する役割を果たします。AOIフォーラムは、2017年8月に生まれ、会員は現在約170社になりました。オープンイノベーションなので、いろんな業種が集まっていろんなことをやっていこうというのが趣旨です。
 AOIフォーラム会員の増田採種場が県農林技術研究所と共同研究で高血圧抑制効果があるケール「ソフトケールGABA(ギャバ)」の栽培方法を開発し、機能性表示製品として今年の1月から販売を始めました。これは葉物野菜では初めて消費者庁での登録が認められたもので、AOIプロジェクトの成果第一号となりました。これからもっと、このような事例が出てくると思います。これを見てAOIプロジェクトに参加される方も増えて、ますます研究が盛んになってくるといいなと思います。

施設内を見学
施設内を見学

委員 AOIフォーラムの描く未来とは。

岩城氏 やはり皆さんが健康で豊かに暮らせる社会です。例えば、個人向けのオーダーメイドの野菜が出てくるかもしれません。自分が罹った病気や健康診断のデータや飲んでいる薬などの情報に基づいて、健康を維持できる成分が入っている、その人のための野菜が提供されることになるかもしれません。そのようなことも目指して、AOI-PARCでの研究・開発が進むと思います。

委員 自然界にない環境、例えば土で作ってない野菜など、これからたくさんできてくるでしょうか。

岩城氏 できてくると思います。でもそれは消費者の選択にも関わるものと思います。植物工場はあちこちで始められていますが、コストの面でうまくいっていない状況もあるようです。植物は太陽と土で育てたものがいいという消費者もいるでしょうし、植物工場で作った栄養成分が豊富で付加価値の高いものが選ばれるかもしれません。

委員 AOI-PARCの取り組みは静岡県がトップランナーで展開していますか。

岩城氏 全国各地でAOIプロジェクトと同じ考えの取り組みやスマート農業の展開が始まっています。去年、テレビ番組の下町ロケットで農機の自動運転の話を扱っていましたが、全国でも同様な研究が進んでいます。しかし、官民で研究開発とビジネス展開の両方を進めているのはここだけです。また環境因子と植物の関係を探る次世代栽培実験装置もここが最先端のレベルです。

委員 建設業界とこのイノベーションがどのようにリンクできますか。

岩城氏 建設業でもアイコンストラクションで建設機械が自動化してきています。例えば、みかん園や茶園の上空にドローンを飛ばして、圃場の観測のデータを取ろうとか、建設業が先に進んでいる技術を農作業に展開することが可能だと思います。

委員 働き方改革について、農業はどうなっていきますか。

岩城氏 分散している圃場にセンサーを付けて確認し、目に見えないデータも取ることができるので、生育や出荷の管理のスマート化が図れると思います。それが働き方改革につながってくると思います。産業としての農業がもっと稼げるものになる、その仕組みづくりを国も静岡県もやろうとしています。想像ができないイノベーションが生まれるかもしれません。

取材を終えて 建物前で記念撮影
取材を終えて 建物前で記念撮影

【一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 ホームページ】
http://aoi-i.jp/

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