ズームアップインタビュー 「熱海の『意外』に会いに来て~熱海商工会議所青年部会長の出口直樹さんに聞く~」

  熱海といえば-。温泉、走り湯、梅園、金色夜叉のお宮の松、神社、老舗旅館、芸者、初島などなど、観光スポットを挙げるときりがない。首都圏に近く、これほどの観光資源を持っている街は、静岡県内でも随一でしょう。本サイトでは、これまでも大工道具の博物館や、初島、囲碁クラブを紹介してきましたが、今回は、昨年(平成25年)4月に設立した熱海商工会議所の青年部の初代会長に就任した出口直樹さん(東豆土木社長)にインタビューしました。華やかな街の顔の一方で、悩む姿もあります。出口氏は、さまざまな職種が集う横のつながりの中から「新しい産業」を模索しようとしています。ちょうど4月から熱海市のシティ・プロモーション「意外と熱海」がスタートしています。出口さんのお話を聞いた後で、ぜひ、いままでのイメージを破る(もちろんイメージ通りでも結構ですが)熱海の「意外」に出会いに行きましょう。(インタビューアーは原廣太郎総務・広報委員長、佐野茂樹同副委員長、名倉啓司特別委員)

出口会長をインタビューする原委員長(左)と佐野福委員長(中央)
▲出口会長をインタビューする原委員長(左)と佐野副委員長(中央)

■みんな何かを求めている

委員―設立の経緯を教えてください。


昨年の2月ごろ、鵜沢前会頭から「青年部を立ち上げたいのだけれど、協力してほしい」という打診がありました。会の立ち上げは初めてなので、発起人制度にしましょうと、約10人の仲間に声を掛けたところ快諾してもらいました。最初は30人くらいの会員数との予想をしていたのですが、結果的に77人のメンバーが集まり、昨年の4月11日に設立総会を開いてスタートしました。
 正直、何を目的にするのかというところも、よく分かっていなかったのです。ただ、静岡県東部地区の商議所で青年部がないのは熱海だけでした。下田も伊東も数年前に立ち上げたということで、やはり熱海にも必要だというのが発端です。
 あくまで下部組織ですし、今のところ他地区の青年部との交流を含め、ここ数年間は組織の地固めをするべきかと思います。暗中模索の状況です。
 熱海は、一人親方や、三ちゃん経営の商売が多くて、仕事以外の場では顔が見えにくい若手もいる。青年部を立ち上げてみて、そのような方々にも加入していただき、みんなが何かを求めているんだなという思いを感じました。

委員―地固めの期間とはいえ、やはり熱海の活性化が重要な目的だと思いますが、活動の方向性は。

まずは交流と研鑽(けんさん)からということです。メンバーは、それぞれの職種としてやりたいことはたくさんあるようですが、会員のみなさんにとって一番価値があるのは、異業種間の交流です。神社の宮司さんがいて、小売店、料飲食業、お土産物店の方がいて、サービス業の方がいて、ITに長けた人がいて、私たちのような建設業や設計業の人間もいる。もちろん観光団体の青年部の方も集まってきてくれていますので、その部分でメリットが生まれてくるのかと思っています。1年たって、ようやく顔見知りになってきたかなというところです。

昨年3月の設立総会
▲昨年4月の設立総会

■高齢化の中で存在感高まる若者

委員―そうしたみなさんが集まるのは、熱海の町がコンパクトだということでもあるのでしょうか。


 そうですね。もう一つは、65歳以上の高齢者が占める割合、高齢化率が40%を超えていて、県内の市の中で一番高いという特色もあります。市町では3番目に高い。30年後の日本の姿だといわれているそうです。終(つい)のすみかを求めて熱海にいらっしゃる方もありますので一概にはいえませんが、青年層の絶対数は非常に少ない。青年部に集まったメンバーは、相当いろいろなことを兼務しています。経済団体や組合、自治会、消防団、NPOなどの要職、あるいは行政などから委嘱された役職を兼ねている方が多い。役でがんじがらめになっている感じがしました。30年後の日本もそうなんだろうなと思いました。
 一方で、それを逆手に取って少数精鋭で交流しやすい、話がつけやすいところがあるのです。あるいはメンバーの一人一人を紹介するのにも掘り下げて紹介できる。若者が増える町ではないだけに、かえって若者の存在感が出てきて、重要視されてくる時代になるのではないかと思っています。

■7青年部で道路整備促進へ共同声明

委員―この1年間の活動ではどのような活動をされましたか。


 研鑽としては、商議所自体をもっと良く知ろうという勉強会、市の政策理解として副市長の講話、産業振興関連部署とのワークショップなど。交流としては、熱海青年部内での懇親はもちろんのこと、他地区の青年部の活動を通じて組織や活動のあり方を調査研究しています。昨年度は伊東の青年部から「商店街のアーケードで綱引きをやるから参加してほしい」という声が掛かって、参加しました。三島の青年部からは「三島大社を起点に街道沿いを活性化させたいので、名産品のブースを出してほしい」と言われて、イベントに友情出店しました。他地区を比べると、やはり熱海は観光資源が数多くあるがゆえに、いろいろな団体がいろいろなことをしているのだということが良く分かりました。
 また、沼津青年部と意見交換もしました。観光地としての熱海のやり方を学びたいと言われました。私たちとしては、沼津の青年部は浜松に次いで県内で2番目に大きな組織なので、いろいろな手法を学びたいと意見交換をしたのです。
 ことし3月には、沼津青年部の25周年において、東部・伊豆地区の7青年部(沼津、三島、富士、富士宮、伊東、下田、熱海)で、静岡県東部・伊豆地域の道路整備促進について共同声明を出しました。商工会議所は、全国組織であることによるスケールメリットがあります。寄り合えば発言効力があるところがいいところです。
 共同声明に向けた意見交換をする中で、高架で道ができてしまうと街がさびれる恐れがあるという意見が当然ありました。しかし、例えばその昔に熱函道路ができた時に、田方・三島地区から熱海に来やすくなったというのと同じで、物資の輸送も緊急の搬送も、これだけ便利になる。それに代えられるだろうかということです。そうした大局的な議論もできて、意見交換は非常に勉強になりました。

沼津青年部との意見交換での記念撮影
▲沼津青年部との意見交換での記念撮影

■熱海高校とのリンク

委員―人口減少、若者の不足は、高齢化とともに大きな課題だと思いますが。


青年部ができた波及効果の一つとして、地元の熱海高校の進路指導の先生からのお声掛けがありました。「熱海高校への志願者が減っていて、このままでは存続に問題が生じかねない。魅力がない一つの理由は就職先が少ないこと、何かつながりができないか」というお話をいただき、これを受けて青年部の研修会に先生に来ていただきました。熱海高校の生徒は、授業の一環として自分たちで商品を開発したり、販売したりしているそうなのです。そうした取り組みは、地元の企業とつながりができる可能性があります。

熱海には資源も多いが課題も多い
▲熱海には資源も多いが課題も多い

 私たちは若者が帰ってこないのは街のせいだと思っていましたが、経営者として私たち自身のPRが足りないことがよく分かりました。生徒の中には熱海で働きたい子もいる。熱海は就職機会が少ないので生徒たちは来てくれないものだと思っていましたが、ここで一つの交流ができました。
 市役所も熱海高校とつながりを深めたいという考えがあるようです。そうして高校とのリンクが始まりつつあります。青年部としても次年度以降の活動計画に盛り込んでいければいいと思っています。
 また、これを小中学校に置き換えれば、体験学習への協力というのも魅力があると思います。お花屋さんをやりたい、お菓子屋さんをやりたいという子どもを職場に受け入れることについては比較的対応しやすい。小さな時に記憶に植え付けてもらうこともいい。商工会議所はその窓口としてうってつけでしょう。
 建設業でいえば、私はこの3月いっぱいまでPTAの会長でしたので、建設現場の見学を企画しました。水道管の埋設工事ひとつをとっても面白い。河川から浄水場へ、そして水道管を通って自宅の蛇口へ、それが海の底を通って初島まで行っているのだと言うと、子供たちはものすごく驚く。現場見学の企画を出すと、先生方は安全面の担保などで最初はたいてい嫌がりますが、見学してもらうと先生方にも喜んでもらえます。

■「差しつ差さされつ」の文化

委員―熱海は外から見ると、県内では一番魅力がある街ではないでしょうか。地元の人がさびれていると思うほどには外の人たちは思っていません。

例えば、おもてなし一つをとっても、熱海独特の流儀に「こんなことをしているの」と、結構驚かれることがあるようです。よく言われるのは旅館で会議を行った後の座敷、お膳の形式での懇親会です。膝を突き合わせてお酒を飲むという文化、「差しつ差さされつ」というコミュニケーションが、会議の後に普通に行われている。今の若い人たちには珍しいのでしょう。

委員―熱海の文化を大事にしなければならないということですね。


自分たちが意識しない部分でも、外の人たちにとっては面白いことがたくさんあるということです。それを外の意見を聞きつつ、仲間たちと発見・共有していこうと。今の時代、建設業協会の青年部が廃止になりましたし、各団体でも青年部をつくっている場合ではなくなっています。横のつながりとして市内で一つだけ青年部ができれば一番いいと思いますが、そういうわけにはいかない。その中で商工会議所は全国的な組織ですので、他地区との交流も含めて、それを最大限に活用したいと思います。先ほどお話ししましたように、沼津や三島などとも交流をしてきて、熱海の立ち位置が良く分かることもありますし、日頃仕事に勤しんでいるメンバーもそういった交流に参加して、入って良かったなあという方が多いですね。
 それから、設立時には「高齢化する日本のモデルケースになる」なんて大げさな見出しで取り上げていただきましたが、それは「熱海は30年後の日本の姿、と言われているなら、それを逆手にとって、青年層で寄り合って今後のあり方に取り組んでいこうよ」という意味合いで言ったつもりでした。高齢化社会の中の青年部というモデルではなく、商工業者という観点から見て、熱海に新しい連携による産業のモデルケースができればいいと考えているのです。今後、建設業も含めて、それぞれ違う商売をしている人たちが「一緒に面白いことを起こそうよ」ということなのです。

膝突き合わせて、差しつ差されつが熱海方式
▲膝突き合わせて、差しつ差されつが熱海方式

■もう一歩深い熱海の理解へ

芸者も熱海の大切な文化
▲芸者も熱海の大切な文化

委員―まだまだ資源を掘り下げる余地が大きいということですね。

 熱海は「泉・伊豆山・多賀・網代・初島」といって、中心市街地以外にも魅力的な地区があり、観光団体が市内に6つもあるほどです。会員からはこんな提案がありました、自分たちは長いこと熱海に住んでいながら、本当に熱海のことを知っているのだろうか? 自分たちこそが「はとバスツアー」のようにバスに乗って熱海巡りをするべきではないか?恐らく、熱海についてどれだけ知らないことが多かったかということが分かる。それに加えて、これだけ資源に恵まれているのだから、もう一歩深いところまで知っていこうと。これは、実現したいですね。
 ちょうど熱海市がシティ・プロモーション事業ということを始めました。「意外と熱海」という売り出しの観光プロモーション事業です。入札でJTBが受注して、商工会議所からは専務と職員、そして青年部から私が会議体に参加しているのですが、これも勉強になります。熱海って「意外と」こうだったのだと。会議体のメンバーから意見を聞くと「意外と飲食が大事だよね」ということになって。商工会議所で推進している「A‐PLUS」(Aプラス)というお土産をプロモーションにリンクさせたり、協賛したお店が「意外と感」があるメニューを出して、それを注文したお客さんには値引きするという取り組みも準備中です。
 熱海の飲食が意外と知られていません。やはり旅館がノウハウを持ってお客さんに提供してきた歴史もあり、宿泊客が市内飲食店で食事をする文化が薄い。そこでせめぎ合いがあるのですが、そういうものを均していこうという理解の波が起きていると感じます。

商工会議所前で記念撮影
▲商工会議所前で記念撮影

委員―ありがとうございました。ぜひ、青年部のみなさんの取り組みを実らせて新しい熱海を見せてください。

意見採択書
静岡県東部・伊豆地域の道路整備促進について

 静岡県東部伊豆地域においては、交通インフラの整備、とりわけ道路整備がかねてより喫緊の課題として取り上げられています。従来は生活に係わる利便性の向上や各々の産業振興策の中心施策として各地域より取り上げられてきた課題ではありますが、東日本大震災を受け、緊急避難・輸送路としての役割も強く訴えられるようになってきています。
 特に、その大動脈の源となる伊豆縦貫道の早期の全計画路線開通は地域住民の悲願であり、命の道として果たす役割が極めて大きいことは、過去の大震災においても明白となっています。
 併せて、最近では異常気象による局地的ゲリラ豪雨なども多発し、天城地域をはじめ降雨量が多い極めて危険と推察される地域を抱えること、また最近では、富士山や箱根山で火山活動の活発化を示すと想われるような兆候も見られること、因みに富士火山帯の延長である小笠原諸島西之島付近では新島が形成されるなどの活発な火山活動も見られます。
 このような側面から、静岡県東部・伊豆地域内では安全で迅速な移動・避難手段を考えておかなければならない状況が一層差し迫っていると考えられます。
 しかし、この地域においての交通インフラの整備状況は、道路・鉄道とも十分と言える状況下にはなく、現在進められている、域内を短時間で移動できるインフラ整備を早急に構築すべきと考えるところです。
 また、この地域においては昨年の富士山の世界文化遺産登録、平成27年度には伊豆ジオパークの世界認定を目指しているところでもあり、ふじのくに先端医療総合特区、内陸フロンティア構想の特区認定もあり、観光のみならず、各種の産業集積はもとより、そこから派生するツーリズム等の構築により、政府の掲げるインバウンド戦略においても日本の顔となるべき重要な地域と位置づけられるとも考えております。
 このようなことを併せ、伊豆縦貫道の計画全線を早期に開通させ、沿岸部の核となる地域を連結道路で結び、富士山周辺から伊豆半島一帯の交通の利便性を図ることは、防災面はもとより、救急医療面、経済活動面においても大きな意義を持ち、結果、各地域の施策にも影響を与え、交流人口の拡大やコンパクトシティ化戦略などにも繋がるものであります。
 そこで、我々東部・伊豆地域の7商工会議所青年部は、域内の将来を見据え、以下の項目について意見採択し、関係各位に要望するものである。


伊豆縦貫自動車道(天城北道路6.7km)の早期完成
伊豆縦貫自動車道(河津下田道路Ⅰ期5.9km、Ⅱ期6.8km)の早期着工
伊豆縦貫自動車道(河津・修善寺月ケ瀬区間)の早期着工並びに既存一般国道における狭隘区間等の整備
東駿河湾環状道路(沼津IC以西7.9km区間)の早期事業化
東駿河湾環状道路連絡路(大場・函南IC~(仮)函南IC1.9km)の早期着工 伊豆湘南道路の早期実現
一般国道414号(静浦バイパス)の計画全線の早期着工・実現
一般国道1号線「富士由比バイパス富士立体」及び一般国道139号「富士改良」の整備促進
伊豆半島東西沿岸と伊豆縦貫自動車道とのアクセス道路の早期実現
静岡県東部・伊豆エリアにおける道路整備等検討会議の設置

以上について、要望いたします。

平成26年3月14日
沼津商工会議所青年部
三島商工会議所青年部
富士商工会議所青年部
富士宮商工会議所青年部
伊東商工会議所青年部
下田商工会議所青年部
熱海商工会議所青年部

出口直樹(でぐち・なおき)氏

 昭和41年4月生まれの48歳。立教大学卒業後、(株)熊谷組に入社。平成8年に実家である東豆土木(株)に入社し、20年に社長就任。平成16年に熱海青年会議所(熱海JC)第51代理事長を歴任。
 「熱海の県協会員で最も若い社長」だ。立教大学では硬式野球部に所属、当時、先輩に現タレントの長嶋一茂氏がいた。長嶋氏が言った「おふくろの味はチーズケーキ」の言葉が忘れられない。

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