特別企画 全国に先駆けて御前崎港で進む「粘り強い防波堤」整備~急がれる港湾の津波対策~

▲御前崎港と駿河湾・富士山(写真提供 静岡県御前崎港管理事務所)
※が御前崎港女岩地区防波堤(西)

 東日本大震災による津波は、防波堤をはじめとした港湾施設に大きな被害をもたらした。被害が生じたとはいえ、防波堤は津波高を低減させ、津波の到達時間を遅らせるといった効果を発揮したという。こうしたことから、従来の想定を超える津波にも壊滅しない「粘り強い構造」の防波堤が求められている。国土交通省中部地方整備局では既に、全国に先駆けて御前崎港の女岩地区防波堤(西)と、名古屋港外港地区防波堤(高潮防波堤)の2カ所で整備に着手している。御前崎港での取り組みを紹介する。


防波堤を港側から望む
▲防波堤を港側から望む

壊滅すれば復旧・復興の支障

 東日本大震災の津波により、釜石港などで防波堤が全壊あるいは半壊した。被災のメカニズムは次のように分析されている。

 港外側から津波が防波堤にぶつかると、防波堤の外側と内側の水位差が大きくなり、ケーソンが押されて滑動する。また防波堤を越えた海水が、水位差によって強い流速で防波堤に沿って港内側に流れ落ちる。この流れが防波堤を支えている基礎マウンドを洗掘。この結果、ケーソンが滑落したというのだ。

 「防波堤が壊滅的な打撃を受けると、港湾活動の継続が困難になる。緊急物資の輸送や地域活動を支える物流を確保するためにも、防波堤に粘り強い防災力が必要になっている」と清水港湾事務所の佐々木純前所長。

 防波堤が倒壊すれば、滑落したケーソンが障害物となって船舶の航行を妨げ、早期復旧・復興の足かせにもなる恐れがある。このため、津波越流時の基礎マウンド洗掘防止対策などで耐津波性能を高めた「粘り強い構造」とする補強対策を実施することにした。

粘り強い防波堤イメージ図(国土交通省資料より) 佐々木純前清水港湾事務所長
▲粘り強い防波堤イメージ図(国土交通省資料より)
※画像をクリックすると拡大画像がご覧になれます。
▲佐々木純前清水港湾事務所長

1個2.5トン以上の巨石で補強

船から一つひとつ被覆石を投入する(写真提供 青木建設(株))
▲船から一つひとつ被覆石を投入する
(写真提供 青木建設(株))
三重県尾鷲から運ばれてきた巨石を投入(写真提供 青木建設(株))
▲三重県尾鷲から運ばれてきた巨石を投入
(写真提供 青木建設(株))

 御前崎港女岩地区防波堤(西)は、延長870メートル。これをA(300メートル)、B(152メートル)、C(218メートル)、D(200メートル)の4工区に分け、港内外に被覆工を施して「粘り強い構造」を実現していく。

 中部地方整備局の防波堤耐津波性能評価委員会の検討結果を踏まえ、詳細な断面を決定。発生頻度の高い津波の1.7倍の津波に対しても「倒壊しない粘り強い構造」に、また「地震後の復旧期間中に港内静穏度を確保するために必要な高さを確保できる」ようにする工事がC工区から始まった。

 C工区では、防波堤の外側に既設の倍の重さとなる1個1.2トン以上の被覆石(約5100立方メートル)を約180メートル、また内側にはさらに大きな1個2.5トン以上の被覆石(約2600立方メートル)を約230メートルにわたって、それぞれ設置する。これだけの大きさの石は県内では調達できないため、三重県の尾鷲港から搬入しているという。


風と波が施工の最大のネック

 被覆工の最盛期は冬。冬の海は波が荒い。1月中旬に、御前崎港を訪れた日も波は高かった。それでも午前中には工事をしていたということから、現場に船で向かったが、波が高まったせいで、既に人影はなかった。風速が10分間平均10メートルとなると工事はストップする。「風が強いため、先読みをしないと工事に掛かれない」(宇野清助御前崎港事務所長)とはいえ、「ことしも例年通り風が強い」(同)。海上工事に風は付き物か。」

 この被覆工に続き、越流から基礎マウンドを守るため、港内側で根固めブロックも新設する。既に西ふ頭で、年度内の完成を目指してブロックの製作を進めている。現在工事中のマウンドの上に据え付ける計画だ。C工区の完成は、ことしの夏を予定している。

 今後は予算しだいだが、C工区に続き、B、D工区を施工する順で進め、「2015年度中には全体を完成させたい」(堀池昌生清水港湾事務所工務課長)考えでいる。

天気明朗なれど波高し…工事の邪魔をする風、波
▲天気明朗なれど波高し…工事の邪魔をする風、波
「例年通り風が強い」と語る宇野清助御前崎港事務所長 堀池昌生清水港湾事務所工務課長
▲「例年通り風が強い」と語る
宇野清助御前崎港事務所長
▲堀池昌生清水港湾事務所工務課長

「防災」と「減災」、ハードとソフト

 国交省交通政策審議会港湾分科会防災部会は昨年6月に「港湾における地震・津波対策のあり方~島国日本の生命線の維持に向けて~」と題する答申をまとめている。

 この中で、発生頻度の高い津波に対しては、「構造物で人命・財産を守りきる『防災』を目指」し、発生頻度の高い津波を超える津波、発生頻度は極めて低いが沿岸域への影響が甚大な最大クラスの津波に対しては、「最低限人命を守るという目標のもとに被害をできるだけ小さくする『減災』を目指す」と述べている。

 発生頻度は極めて低いが沿岸域への影響が甚大な最大クラスの津波への対策には多大なコストが必要になる。佐々木前所長は「ハード面だけで対応するのは困難。ハード、ソフト両面で連携して命を守るということを考えなければならない」と語る。粘り強い構造の防波堤整備の上に、「想定外」をつくらないソフト面の対策も追求しているのである。

佐野茂樹総務・広報委員(左)、が佐々木前所長(右)、堀池工務課長にインタビュー(清水港湾事務所で)
▲佐野茂樹総務・広報副委員長(左)、が佐々木前所長(右)、堀池工務課長にインタビュー
(清水港湾事務所で)

 東北には来てしまった。しかし、南海トラフによる巨大地震にはまだ間に合う--。


≪ホームページ≫

御前崎港要覧(静岡県御前崎港管理事務所ホームページ)
http://doboku.pref.shizuoka.jp/desaki2/omaezaki/gaiyou/pamphlet.html

▲TOP