ズームアップインタビュー 熱海に五重塔が出現? ~棟梁・山田明さんに聞く伝統建築技能の現在~

ことし10月28日、国内唯一の治山センターである林野庁関東森林管理局「大井川治山センター」の進める作業現場を訪ねました。同センターは、大井川の中・上流域の4万3632ヘクタールの区域で荒廃した森林を復旧する「治山事業」を行っています。急峻な地形で脆弱な地質の日本では、台風などの集中豪雨、地震で山崩れをはじめ土石流、地すべりが頻繁に発生します。大井川地区の山地も例外ではなく、多数の崩壊地が存在しています。同センターの島田喜代司所長は「治山事業とは、山崩れを元の森林に戻すという重要な役割を担っています」と語っていました。環境問題が叫ばれる中、森林は人の営みに欠かせない、たくさんの働きがあり、まさに未来へ受け継げなければいけない「人類の財産」といえます。このように重要でありながら、世の中にほとんど知られていない治山事業。ぜひ1人でも多くの人に関心を持ってほしいものです。今回は、同センターの島田所長に大井川地区治山事業の概要や崩壊した山地の復旧方法についてお話しを伺った後、現場視察も行いました。

島田喜代司所長・所長補佐の坂賢氏、事業係長の神永広行氏

天気はあいにくの雨。島田市内の(社)島田建設業協会に視察メンバーが集合、マイクロバスで「ウッドハウスおろくぼ」(川根本町水川866ノ5)へ向かいました。ここで大井川治山センターの島田喜代司所長から大井川地区の治山事業についてお話しを伺いました。

ウッドハウスおろくぼは、奥大井自然公園の入り口に建つログハウスの宿泊施設。この立地にふさわしく木をふんだんに使った建物です。標高は約660メートル。まさに緑に囲まれた大自然の中にあります。紅葉で覆い尽くされるのは1週間後くらい先になるとのことです。それでも綺麗な赤を見せる木々がちらほら。きょうは、天気のせいで霧がかっていますが、晴れの日にはどんなに素晴らしい景色だったかと惜しまれます。

島田所長は「きょうは、このようなお話しをする機会を設けていただき、ありがとうございます。これから、治山事業を通じておこなっている森林保全と、大井川治山センターで実施している事業内容について紹介したいと思います」と前置きして話し始め、熱をこめて以下のように解説されました。

大井川の概要と事業開始の経緯

島田所長、熱のこもった解説を展開
▲島田所長、熱のこもった解説を展開
参加者も熱心に耳を傾ける
▲参加者も熱心に耳を傾ける

 大井川は、南アルプスの3000メートル級の山々が源で、静岡県のほぼ中央部を通り駿河湾へ注ぐ流路延長168キロメートル、流域面積1280平方キロメートルの大河川です。

 源流部一帯は、間の岳、塩見岳、赤石岳などの名峰がそびえています。国立公園や県立公園等に指定されるなど豊かな自然を誇る一方で、複雑に断層が交錯する地質条件ゆえに侵食が著しく進行し、山地荒廃が進んでいます。

 過去を振り返ると、昭和30年代から、電源開発事業や林道網の整備で急速に開発が進みましたが、同時に環境保全への関心も高まりました。

 そこで、旧林野庁東京営林局(現・林野庁関東森林管理局)は、昭和41年にこの地域の荒廃地を復旧するため、民有林直轄治山事業に着手しました。現在は大井川治山センターで事業を実施しています。


大井川治山センターは林野庁の組織の中で治山事業を専門に実施する唯一の「治山センター」。技術開発とともに地元のこどもたち対象の「治山教室」開催など、啓蒙活動も使命

 大井川治山センターは、静岡市葵区井川の大井川源流部及び川根本町の榛原川上流域の4万3632ヘクタールを対象地として荒廃地の復旧を進めています。

 この事業区域はとても広大で、すべてを短期間で復旧するというのは非常に困難です。そういったことから、我々は緊急性の高い地区から、優先的に実施しています。

 また、われわれは林野庁の組織の中で治山事業を専門に実施する唯一の「治山センター」として事業を進めています。発注している工事の中で、さまざまな施工技術の向上に取り組んでいます。その成果を「治山研究発表会」等で報告し、より安全で安心な森林保全に貢献することを目指しています。

 また、治山事業の普及啓発にも取り組んでいます。地元川根本町や東京で開かれるイベントに参加しPRを行うほか、2009年度からは地元の小中学生を対象とした「治山教室」を開いて事業地の見学、また測量や重機の搭乗の体験を行っています。これらも重要な事業のひとつと位置付けています。


荒廃地の状況

広大な復旧斜面に圧倒される
▲広大な復旧斜面に圧倒される

 この地区の山地は、糸魚川―静岡構造線と中央構造線のふたつの断層に挟まれ地質が脆弱となっています。

 また、標高が高く気温の較差が大きく、降水量が多いことから、風化侵食が顕著で、崩壊地等から生産された土砂は山腹や渓床に堆積しており、豪雨の際には土石流となり下流へ流出しています。

 現在の荒廃個所数3586カ所で、荒廃面積3524ヘクタール。荒廃率でいうと8.1%となっています。

 一度、森林の崩壊が始まると、次第にその範囲が拡大し、結果として大きな崩壊地となってしまうことが少なくありません。森林の拡大崩壊の兆しが見られる場所ではその規模が小さいうちに、健全な森林に戻るための手助けをし、大きな崩壊地となった場所では大がかりな保全工事を行います。そのために様々な施工方法を導入しています。


主な治山工事(1)崩壊地の復旧には土留工施工後に緑化

見学風景
▲見学風景

 崩壊地の復旧は、崩壊地内の不安定土砂が流下しないよう崩壊地直下に治山ダムを設置します。その後に、崩壊地内では表面の土がたえず動いており、植物の成長が困難なことから、崩れている山腹斜面の土が動かないよう土留工をつくります。土留工で崩壊斜面が安定したら種子が付いたマットを伏せて早期に緑化させます。


主な治山工事(2)急峻な斜面では、緑化が可能な吹付けや法枠工

RCMが活躍
▲ロッククライミングマシンが活躍

 崩壊面が急で脆弱な岩の斜面では、斜面の風化や浸食の防止を図るため、特殊配合モルタルを吹き付けます。同じ急斜面でも土質のところでは簡易法枠工で斜面を安定させます。そして両工法とも緑化が可能です。また資材の運搬が困難な崩壊地には、航空機で種子を蒔いて緑化を行っています。


主な治山工事(3)治山ダムで森林(山)を保全

復旧された斜面には緑化が進む
▲復旧された斜面には緑化が進む

 川の流れが急で勢いの強いところでは、川底や川岸をけずり両岸の山を崩してしまうことがあります。それを防ぐため、荒廃した渓流には「治山ダム」を施工します。治山ダムは水を貯めるものではなく、水の勢いを弱めて、流れてきた土砂を「溜める」ことを目的としています。治山ダムを階段状につくることにより川の流れが緩やかになり災害を起すおそれのある多くの土砂が、一度に流れないようにすることができます。さらに治山ダムが土砂を溜めることによって山を支えて崩れにくくします。


現地発生材や間伐材の活用

 治山構造物の施工にはコンクリートを使うことが多いのですが、施工地の状況によっては現地発生材を中詰材として使用した、鋼製枠やふとんかごを使います。また治山ダムの放水路には表面強度の強い現地発生の巨石を張りつけることで磨耗防止を図っており、これらはコスト縮減の効果もあります。さらに間伐材の利用促進にも努めることで環境にも配慮し、木柵等の構造物や工事看板などに活用しています。


崩れた森林の復旧は重要な国土保全対策

 最後に、崩れた森林は治山工事をおこなうことで、元の森林に戻すことができます。われわれは森林へ復旧することにより、山地に起因する災害から国民の皆様の生命・財産を保全し、また水源のかん養、生活環境の保全・形成等を図り、安全で安心のできる豊かなくらしを実現できるよう努めていきたいと考えています。


視察した榛原川地区、広大な崩壊斜面の復旧、急斜面の広がる風景に圧倒される

雨の中、現場説明する坂所長補佐
▲雨の中、現場説明する坂所長補佐

 島田所長の力入ったお話しの後、昼食。「ウッドハウスおろくぼ」自慢のカレーライスを頂きました。少し休憩し、バスで作業現場へ向かいました。小雨が降り続ける中、勾配のある山道を走り続けました。1時間近く走ったかと思います。

 向かった現場は榛原川地区。ここは川根本町に位置する。平成13年度に「大井川治山センター」発足と同時に事業区域に編入された地区で対象面積は1890ヘクタール。

 下流に元藤川集落があります。また国道362号の橋梁、発電用取水ダム、茶畑が広がるなど重要な施設や地域資源もあります。これらを守るため、早期の復旧が求められている地区です。今回は、工事が進められている大札北沢・二の沢・ゴボウ薙・東沢を見学しました。

 最初の見学地に着くと、雨がやや強くなってきました。気温も低くなり寒い。そんな中で、大井川治山センターの島田所長はじめ所長補佐の坂賢氏、事業係長の神長広行氏が同行し、各現場を熱心に説明して下さいました。

 圧巻だったのは、広大な崩壊地の急斜面。道路から下を見下ろすだけでも足がすくみます。ここでは、機械による法面整形や特殊配合のモルタル吹き付けによる復旧が行われています。最初に目についたのは、機械による法面整形。これは、RCM(ロッククライミングマシン)というパワーショベルで、2本のワイヤで懸架して急斜面を作業するもの。人力で行っていたものが、より安全で効率的に作業が進むようになり、大規模な崩壊地の復旧には欠かせないものとなっているそうです。

 最後に、標高約1400メートルの山犬段で記念撮影。自然の壮大さを感じた貴重な体験となりました。


現場を見下ろす参加者ら
▲現場を見下ろす参加者ら
現場をのぞき込む参加者ら
▲現場をのぞき込む参加者ら
最後に参加者全員で記念撮影
▲最後に参加者全員で記念撮影

【委員長の取材後記】

 朝からあいにくの雨だった。台風14号が南方海上を北上中につき秋雨前線を刺激して奄美大島は追い討ちの大雨の様子だが、大井川周辺は雲は薄いが、しとしとと小雨が降り続いていた。

 午前9時15分島田駅に降り立った、江幡副委員長、佐野委員と県建設業協会の今井常務を車で迎えに行き合流。あいさつもそこそこに大井川をさかのぼり、上長尾から稜線林道に入り「ウッドハウスおろくぼ」に10時半到着、すでに大井川治山センターの所長以下2人の職員の方々が待っていた。

 今回は、島田建設業協会建設委員会の行事に便乗しての所長インタビュー及び見学会のため、先方の予定に沿っての取材。ここで島田協会の皆さんと合流して、治山センター所長の業務説明を聞いた。40分間位のお話の後、カレーライスの昼食を全員で取り、島田協会のマイクロバスに同乗して現場に向かった。

綺麗な赤を見せる木も
▲綺麗な赤を見せる木も

 雨は止まず、海抜1000メートル以上の山頂近くは、普段、雨なら霧ではなくて雲が掛かって一寸先も見えないはずが、きょうに限って雲がかからず霧が薄くかかる程度で、大札北沢、二の沢、ゴボウ薙、東沢の急斜面の現場をかろうじて見学することができた。

 気温は7度でかなり寒い。蕎麦壺山標高1400メートルの頂上近くである。最後に山犬段からホーキ薙への進入路へ。榛原川地区最大の崩壊地である。江幡副委員長の会社である河津建設さんの手がける現場であったが、進入路が現場まで完成していないため、終点で現場の説明を聞いて引き返した。ここまで登ると紅葉が始まって霧雨にけむる谷間から真っ赤な木々が美しく、神秘的でさえあった。

 下田を暗いうちに発ってこられた江幡副委員長、はじめ佐野委員、今井常務雨の中、皆さん大変でした。労をねぎらって静岡駅まで一直線に走り、15時30分送り届けました。

 追伸、後日、11月3日の午後、山犬段まで紅葉を見届けに行ってきました。紅葉真っ盛りで、山々は真っ赤に燃え盛っていたことを付記します。

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