「陶 芸」
代表取締役 植松弘行さん((株)植松建設)

幼い頃、「箱根細工」の寄木職人になりたかった。

小さな仕事場で殆ど人に接することなく、終日ラジオでも聞きながら黙々と小さな工夫を凝らした仕事をする職人。今思えば、子供にしては枯れ過ぎた夢のような気がする。

幸か不幸かその夢から逸れ、いまは小さな企業のトップとして日々雑事に追われている。中原中也ではないが、「思えば遠くへ来たものだ。」 そんな中で15年程前に陶芸に出会った。もともとやきものが好きだったので夢の続きを追うように簡単に入り込めたが、当然のことながらすぐその奥深さと裾野の広さに気付き、今日まで悪戦苦闘の繰り返し。

焼成設備だけはプロ並みで、ガス、電気、薪と3つの窯を持っているが、一つとて完全にコントロール出来るわけではない。写真は薪と薪窯そして失敗作のほんの一部。

日本の陶芸界を代表するような作家達にも既知を得、「押しかけ弟子」を自称できるほどの付き合いを頂き、多くのアドバイスや指導を頂戴しているが「言うは易く・・」の世界を彷徨っている。一流作家ほど「技」を出し惜しみしないが、「教えてもお前さんには出来ないよ」と言うことか。

陶芸に限らず、「技を身に付ける」と言う事は毎日毎日同じことを繰り返しながら、その都度小さな工夫をすることが「秘訣」と考えているので、一日一回は陶芸にコミットするようにしている。

土に触れる事が出来ない日は作家の図録や古典作品に目を通すなど「日日是陶芸」の毎日だが、一向に上達しない自分が情けない。

ただ、陶芸を始めてから「失敗を受け入れる」能力は大いに向上したと思う。

多くの時間と体力と資金を費やして焼き上げ、いつだって祈る気持ちで窯の蓋を開けるのだが、思い入れの深い作品ほど失敗と言うことが多くある。

そんな時は一日中不快だが、すぐに「次を作ろう」と言う気持ちの切り替えはとても上手くなった。 逆に思ったように焼けた時は快感この上なく、人知れず微笑んでいる。
窯焚きで月2〜3回は天国と地獄を行き来するが、この両極の往復がけっこう自分を解放し、成熟させてくれる気がしている。

わが陶芸は、始末の悪いことに客が求める「日常雑器」と言われる皿や湯呑み、カップなどを作るのがあまり好きでなく、個展で一番売れない花生ばかり作るので土代すら回収できず、売れない作品が溜まる一方だ。

「芸」と名のつくものは全て、上達する為には「数をこなす」というのが大原則だから寸暇を惜しみ数限りなく作り続け、とうとう家中に作品の置き場が無くなりベランダまで占領しているがこれとてほんの一部だ。

それでも懲りずにまた土に向かうから始末がよいとは言えないだろう。