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都市の発展を考える上で都市交通整備は重要なファクターだ。
モータリゼーション(自動車が生活必需品として普及する現象)の進展を受け、道路整備中心のまちづくりが進められてきた。ドア・ツー・ドアで移動できる利便性は増したが、一方で鉄道やバスなど公共交通機関が衰退し、交通事故や地球環境問題が深刻化する弊害が発生している。
自動車中心社会からの脱却を目指し、今各地で新たな模索が始まっている。富士市では新たな都市交通の担い手として道路と線路を自在に行き来する乗り物・DMV(デュアル・モード・ビークル)の導入を検討中。新たな公共交通網を築いてまちづくりを進めようとしている同市の模索を追った。

富士市は富士山ろくのふもとに広がる24万人都市。同市は旧富士市と吉原市、鷹岡町の2市1町が合併してできた経緯もあり商店街や公共施設が分散しているうえ、近年人口集中地区が郊外に拡大し、中心核のない都市構造を持っている。また、製紙工場で三交代勤務に従事する人が多い地域性もあって、道路整備中心のまちづくりが進められてきた。

その結果、鉄道やバスなどの公共交通機関が衰退。マイカー依存度が更に高まる悪循環で、現在では市民の7割が通勤通学に自動車を利用し、公共交通の利用率は1割にも満たない。富士市で暮らすには自動車は一家に一台でなく、一人一台必要と言われ、一世帯当たりの自動車保有台数は2.29台ときわめて高い。

新富士駅
▲新富士駅

もう一つ富士市の抱える大きな課題は昭和63年に開業した新幹線の新富士駅がJRの在来線と繋がっていないこと。市街地へのアクセスが不便な陸の孤島状態で、路線バスが通ってはいるものの新富士駅の利用客は家族の送迎かタクシーに頼っている。

そもそも新富士駅には山梨県狭南地区までふくめた表富士の玄関口としての機能が期待されていたが、役割を果たすには程遠い実情だ。

これらの課題に対応すべく富士市では平成15年度から検討調査を開始。有識者や市民代表などの会議を通して広く意見を集約し、平成16年度末に「富士市公共交通網整備に関する基本指針」にまとめあげた。

DMV
▲DMV(デュアル・モード・ビーグル)

基本方針では公共交通を「動く公共施設」と位置づけ、自動車依存のウエイトを下げバランスの取れた交通体系を作ること決定。既存の公共交通機関の路線バスや同市東部を走る私鉄の岳南鉄道を有効活用した数々の施策を打ち出している。

短・中期的な施策としては循環バスの運行、バスをスムーズに走らせる優先レーン整備、待ち時間のイライラを解消する接近表示を知らせるシステムを検討中。中・長期的な施策では、JR北海道が開発し新しい交通システムとして注目を浴びているDMV(デュアル・モード・ビーグル)導入が検討されている。

施策イメージ図
▲施策イメージ図(クリックするとPDFファイルが開きます)

道路と線路の両方を走れるDMVは、きめ細やかなサービスができる小型バスの利便性と鉄道の定時制を合わせ持ち、バスと電車の乗り換え手間が不要になるメリットがある。富士市ではDMVを岳南鉄道に乗り入れさせるほか、新幹線のJR新富士駅間と在来線のJR富士駅をつなぐ手段としても導入。富士駅から既設の工場の引き込み線を利用し、新富士駅までの残りの区間は専用道路を新設する案が出されている。

DMVはマイクロバスを改造して作るが費用は一車両当たり約1,500万円と量産も可能な金額。既設の鉄道レールを有効活用するため、低コストで市内をくまなく結ぶ一大交通網を作ることが可能になる。富士市では新たな都市交通整備の切り札として大いに期待。「法令関係の位置づけ(DMVはバスか電車か)の課題は残っているが、JR北海道の導入状況を視野にいれながら、鉄道車両との混在運転の可能性や技術面、事業主体について具体的に検討を進めていく」としている。

DMV(デュアルモードビーグル)は道路と線路の両方を走ることができる車両。車両はマイクロバスを改造したもので車体の下から鉄の車輪を出し入れして、鉄道と線路を自由に行き来できるしくみになっている。道路から線路への乗り入れに要する時間は10〜15秒。JR北海道では昨年から試験運転を開始し平成19年の実用化を目指している。JR北海道に続いて富士市で導入されれば本州で初となる可能性も高い。


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