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時評  
 「私たちは約束を守った」。こう誇らしげにスピーチしたのは、アテネ五輪
組織委員会のトップ、女性のイーアンナ・アンゲロプロス会長である。国会議
員時代に実業家と結婚。海運ビジネスでも成功を収め、4年前、会長を引き受
けた時は45歳であった。建設の遅れを世界から指摘され続けてきたが、すべて
は開幕4日前に辛うじて間に合った。全長約2250メートルの世界最大級の斜張
橋も完成した。他国のこととは言え、建設業に拘わる我々も安堵したものであ
女性の五輪
る。
 組織委員長が女性の年である今大会、日本選手団も初めて女子の選手数が男
子を上回った。中でもミセス有力選手が12人は過去最多と言う。タリバン政権
時代、女性のスポーツが禁じられていたアフガニスタンからも初めて女子選手
が出場し、世界的にも女子の割合が過去最高の4割を超えた。
 日本の関心は、最年少の卓球・福原愛をはじめ、女子柔道、水泳、シンクロ
は言うに及ばず、女子サッカー、女子バレー、女子ソフトに連日大きく紙面が
割かれた。注目の女子マラソンは、発祥の地マラトンから、第1回目の歴史的
なパナシナイコ競技場にゴールする片道コース。人さし指を突き出し、テープ
を切ったのは野口みずきだった。失業保険で生活しながら走り続けて手にした
金メダル。「神様にありがとう」と言うほどに、気温35度、坂の多いコース
は、世界記録保持者ラドクリフ(英国)を含む走者82人の16人が途中棄権した
過酷なレースだった。トラックの隅で野口がそっとキスをした特製シューズの
メーカー株が上がりだした。優勝タイム2時間26分20秒。2時間20分の壁を突破
した高橋尚子は、合宿地の米コロラド州ボルダーにいた。五輪の女子マラソン
で3選手すべてが入賞を果たしたのは史上初となった。
 パレスチナ自治区から初参加する19歳の陸上代表の女子選手、サナ・アブブ
キートさんにも心から声援を送りたい。ガザの競技施設が破壊し尽くされ、練
習といえば、連日の砲撃におびえながら近くの海岸を走るのが精いっぱいだっ
たという。祖国の人の勇気のためにアテネで自己ベストを目指すと言った彼女
に勝利の女神ニケは微笑んでくれたことだろう。
 さて、興奮の現場を世界の眼と耳に伝えていた付帯設備で、巨大スクリー
ン、大型プロジェクター、テレビカメラ200台、モニター2100台、テレビ1万
5000台を技術提供したのは、日本の「パナソニック」技術である。総延長4キ
ロ以上のケーブルや、音響施設用の900本のポールを発注忘れした組織委側
に、松下の社員が急遽対処した結果、毎日の大会が世界に発信しているという
裏の奮闘も記しておきたい。
 そして、アテネ上空は高度1200メートルからの監視カメラを搭載した飛行船
と3機のヘリコプター、更に道路や競技施設周辺に監視カメラが約1200台設置
され、選手村に隣接するタトイ軍用空港など市内数カ所では、パトリオットが
領空侵犯に備えた警戒態勢の中で「平和の祭典」が繰り広げられた。米国での9・
11から始まったテロ対策に、ギリシャが膨大な費用を捻出させられる大会で
あったことも忘れてはならない。「女性の戦う五輪」と言われるまでになった
アテネだが、エーゲ海の対岸イラクでは、米軍と民兵の悲しい戦いが今日も続
いている。
 因みに、次回の開催国、中国は、自国選手団に33企業が合計で1億5000万元
(約20億円)を現金で寄付している他、スポーツ用品や、サービスも提供して
いた。これは2000年シドニー五輪の約2倍の金額と報道された。四年後世界が
平和であること、建築工事に我が国の技術が寄与できていることも願いたい。
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