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横須賀方式の清水市の新入札制度導入で協会の
主張を強く訴えた清水建設業協会会長

鈴与建設(株)代表取締役専務。平成14年4月から
清水建設業協会会長
聞き手/ 市川 貴通
県建設業協会広報部会委員
(株)共立市川土木社長・清水協会
地域をつぶす制度は受け入れられない



検討委の存在すら知らされず突然の発表、説明会

市川 昨年(平成14年)2月、清水市が唐突に14年度から新しい入札制度に移行すると発表しました。その新入札制度に対して、協会はどのようなスタンスに立って、またどのような主張を持って市当局と交渉と折衝を重ねたのか、それともう一点、静岡市と清水市が4月に合併します。 新市の入札制度に対すして、清水建設業協会はどのように考えているのでしょうか。この2点について、お聞きしていきます。清水市の新しい入札制度は、制限付一般競争入札の原則全面実施、予定価格の事前公表、郵便入札の実施といった、今までの清水市の入札制度とは大きく違う、いわゆる横須賀方式に近いものでした。わたしたちは、ほんとうにびっくりしました。とても受け入れられない制度でした。
萩原 協会に連絡があったのは2月25日でした。市川さんも言ったように、突然「(新入札制度の)説明会を開く」って。その連絡が入って、わたしたちは初めて市が入札制度を変えると、知ったんです。びっくりしました。それで調べてみると、一昨年(13年)の11月17日に「清水市入札制度改善検討委員会」が発足していて、検討が始まっていたんです。そして、昨年2月6日にはもう結論が出ていた。恥かしい話ですが、わたしたちはこのような委員会の存在すら知らなかった。だから、協会の意見や考え方、要望を訴えたり、折衝する場は一度もなく、いきなり発表、説明会……。
市川 協会内も混乱しましたね。
萩原 はい、わたしたちの情報収集能力がなかったというか、行政の動きを察知できなかったというか、協会の大きなミスと言われても仕方がない。それで新制度の内容をよく吟味してみました。一番問題だったのは「全工事で一般競争入札を採用する」ということ。清水建設業協会の会員も市のランクで言うと、B・Cクラスの業者が多く、地域性の強い工事をやっている。そういった公共事業まで「一般競争入札でやるのか、とんでもないことだ」と強い調子で声を上げました。



地域の建設産業がおかしくなってしまう

市川 問題点は、何の前触れもなく突然市側から連絡が入ったこと、業界側となんの係わりもなく、委員会で一方的につくられてしまったということ。それと、一般競争入札。B・Cクラス、中小の会員はかなり動揺しました。
萩原 動揺もなにも、清水市の真意が理解できなかった。(新入札制度では)合理化、透明性、電子入札に向けて郵便入札にするとか、これらはこれで一つの時代の流れですからいいとして、焦点は一般競争入札。数百万円の工事でも一般競争入札でやるというし、しかもランクの制限だけで地域性は考慮しないというものでした。そのうえ、予定価格も事前公開だと。私たちが声を強めた「とんでもない」という意味は、「これでやったら、ダンピングが横行する」危険性が分かっているからです。
市川 ダンピング横行の行き着く先は、業界の自滅だと、わたしもそう思いました。
萩原 これでは地域の建設産業がおかしくなってしまう。その結果、地域の活性化や雇用にも影響が出てしまう。
市川 予定価格を事前に公表しての一般競争ですよね、言い方は悪いかもしれませんが、レベルの低い業者でも入札に参加できるわけですからね。これはわたしたち協会員は反対します。とくにB・Cクラスが反対するのは当たり前です。「この制度と内容ではだめだ」ということで、市側と折衝に入るわけですね。
萩原 要望のポイントを絞りました。Aクラスの一般競争入札はまあいいとして、地元にもっとも密着しているB・Cクラスについては、「指名競争入札に重きを置き、地域性を考えてほしい」と強く要望したんです。その結果、「すべての工事を一般競争で」というのを、「50%までにする」という回答を得たんです。さらに、半分といっても、その運用によっては問題が出てくる恐れがあるから、運用についてはわたしたちの要望を再度聞いてほしいとお願いした。その結果、全面的とは言いませんが、市側もわたしたちの要望を理解してくれて、その後の発注業務が行われていると判断しています。この点はありがたいことだと思っています。

清水市の平成14年5月23日付「平成14年度建設工事等入札執行に付いて」
(清水市建設工事請負契約事務検討委員会=委員長 土木部長)
本年6月から実施を予定していた「制限付一般競争入札の全面実施」について静岡・清水両市の合併すりあわせを考慮(静岡市の制限付き一般競争入札は現行30%程度)して、当面、概ね50%程度実施する。
対象案件については、工事の規模、施工箇所等を考慮し選定するものとし、入札参加資格要件については、下記の制限をもって運用を図っていく。

1.登録所在地による制限
2.ランク別による制限
3.許可区分による制限
4.経営審査事項点数による制限
5.工事の施工実績による制限



行政は「優良適格業者」の見極めを

市川 わたしは、先ほどちょっと言いましたが、予定価格の事前公表、なぜこんなことをするんだ、おかしい、と思いました。これですとまともに積算ができないような業者も入札に参加できるようになってしまう。それと不良不適格業者の参入が容易になってしまう。そう感じました。不良不適格業者の排除は、わたしたち業界側の自助努力ではとてもできない。不良不適格業者を排除するのも発注者の業務の一つですし、責任と義務ではないでしょうか。一般競争入札や予定価格の事前公表は、このあたりを放棄しているような気がしてなりません。
萩原 それは発注者の当然の責務であり、また一番の権限ですね。それから、技術力、わたしたちはお客さんに渡す品質の問題があります。お客さんというのは、市当局であり市民も含めてですが、果たして一般競争入札でそれがきっちり確保できるのかなと、心配になります。「業者の技術力と施工能力の見極め、品質確保」は発注者が持つべき一番肝心なところです。不良不適格業者を排除できるような条件がついた上での一般競争入札だったらまだいい。そのあたりを見て見ぬふりをしていては、ダンピングした業者だけが生き残ってしまう。地域性、技術力や技術者のチェックだとか、いろいろな条件を付けた上での一般競争入札にしてほしい。「優良適格業者」をつぶすようなことになりかねない制度は、業界としては受け入れられない。
市川 今おっしゃったような権限、責務は市民に対する行政の義務でもあると思います。「不良不適格業者を、(入札に)入れさせないようにしている」っていうのも、行政の市民に対する責任であり、義務ですよね。
萩原 そうそう。



地域活動、堂々と主張していい

市川 会長は、「清水建設業協会は清水で84年間地域のなかで地道な活動をつづけて生きてきた」とおっしゃってくれましたね。地域に密着し、貢献していると。
萩原 わたしたちは、清水市で生きてきた協会だし、会員も地場の企業です。仕事はもちろんですが、地域のイベントへの参加・協力、ボランティア的な活動など、年間を通じていろいろやってきました。市と折衝する時に、押し付けがましさではなくて、堂々と主張していいことだと思いはっきり訴えました。それが有利な材料になったかどうかは別として、「清水市にある清水建設業協会」を再認識してもらったと感じています。また逆に、地域における活動をつづけていくというのは大事だと、わたし自身もあらためて痛感しました。
市川 市はそういったわたしたちの活動を理解していなかったのかナー。
萩原 そうじゃなくて、入札制度とそういうことは無関係だと思っていたんじゃないかな。改善検討委員会も、そのようなことは知りませんから。



混乱さけるために1市2制度で

市川 合併もいよいよ今年4月です。合併後の入札制度、いまも静岡市と清水市では随分違う面もあるんですが、清水の建設業協会としてはどのような制度といいますか、システムになってほしいとお考えでしょうか。
市川広報部会委員
萩原 これは、非常にむずかしい。対等合併とはいいながら人口からいっても静岡が2に対して清水が1です。市に入札参加を登録している業者数も同じ比率でしょう。(静岡市地区と清水市地区という)地域性を考えずに、そのまま現状のランクに各企業を当てはめて、たとえば一般競争入札をすればどうなるか。静岡が20社なら清水が10社という業者数で、1回1回競争をしていく格好になります。たとえて言えば、鉄砲の弾(たま)が最初からいくつも置いてあって、用意ドンでそれを取り合うなら、確率は2分の1でしょう。しかし、1回1回一つの弾を20対10で取り合うわけです。10のほうが取れる確率は随分低くなってしまう。最初からそうなっては混乱してしまいます。せっかく合併して政令指定都市を目指そう、新しい市を活力がある街をめざすわけですから、これでは何のための合併かということになってしまいます。公共事業の執行体勢だとか、地域的なエリアだとか市の基本的なことがしっかり固まるまで、いろいろな面の調整がつくまでは、二本立てでやっていもらいたい。1国2制度というか1市2制度というか、そうしてほしいと清水市のほうに要望しています。聞いている範囲では、混乱を避ける意味でも、入札制度は「当面は現状のまま」でいくという話です。
市川 工事管理の仕方だって、静岡市と清水市では違う。どちらのやり方になるにせよ、いきなり一本化では私たちは戸惑ってしまう。
萩原 そうそう。



「地域を想う気持ち」、人には負けない

市川 会長にこんなこと言うのは失礼ですが、正直言ってAクラスは、(清水市の新しい入札制度の問題で)動かないだろうと思っていました。「新しい入札制度になってもAクラスはまあまあ妥当な価格での受注、B・Cが競争競争、このギャップは何だ」って突つかれるぞってみんなで話をしたことがありました。ところが全然違っていた。本当によく動いていただいた。びっくりしました。
萩原 今回の問題はランクによって受け取り方も違うのは当然だし、各々の会社の問題なんだけれど、じゃ、はたして個人的な理解と行動でこういった問題が解決できるかというととてもできない。当たり前だけれど各企業の問題は協会・業界の問題でもあるわけで、それだったら協会員みんなの意見を聞いて、業界の世論として市に対しても言うべきことは言うという気持ちでやっていこう、というのがわたしや(協会の)三役の一致した考え方だった。
市川 会長、「なんで俺の時に」っていう気持ちあったと思いますが。
萩原 はっきり、言ってそれはそう。ただわたしは、「地域のことを想う」気持ちは人には負けない。協会だって同じで、実利を求めるだけの会員はいなくてもいいと思っています。本当に地域のことを想って活動する人たちが集まった協会がこれからの協会のあり方のような気がしますね。
市川 横須賀方式のような入札制度はやはり好ましくない入札制度ですね。
萩原 この制度では業界もそうだけれど、地域もおかしくなってしまう。建設産業を理解しないまま制度だけをつくられたらおかしくなってしまう。そのようなことには、わたしたちは抵抗せざるをえません。発注者と受注者は、「つくる」「市民に対する責任」などでは同じでも、ある面では反対の立場にいることも事実です。それがお互いに「いいわ、いいわ」が多くなるのはけっしていいことではない。入札制度でも、その内容がわたしたちの業界に適(かな)っていると思うのだったらそれでいい。しかし、内容をよく吟味して、それが自分たちのためにならない、地域のためにならないと思ったら、やはり徹底的に、精一杯言うべきことは言わないといけない。説得しなければいけない。そうでないと「協会なにやっている」っていうことになってしまう。というよりも、業界全体が。
市川 それは、行政に刃向かうというようなことではなくてですね。
萩原 理解してもらう、ということ。それと、くどいようだけれど、地域のイベントだとかお祭りでのボランティア、災害があったときの活動、県下の協会の中では一番歴史がある協会の青年部の活動、いままで清水の協会は結構、やってきた。そういう活動がいざという時に一番味方になると、わたし自身つくづく感じました。
市川 言葉では「地域で生きる」「地域に貢献」「地元に密着」と簡単に言います。これは、企業にとっては当たり前のことです。今回の清水市の新入札制度問題で、わたしも地域や地元の大切さをあらためて考えさせられました。そして、市は、ある程度、協会の主張を取り入れてくれたわけですから、私たちの責任もまた、以前にもまして大きくなったと感じています。ありがとうございました。

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